酒田市民会館 希望ホール KIBOU HALL

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活動レポート

喜名雅 テューバ・リサイタル

希望ホール 大ホール
2023年7月8日

6月に酒田市に1週間滞在し、市内小学校でのクラスコンサート、希望ホールでのアナリーゼワークショップ(楽曲解説)、八幡タウンセンターでのワンコインコンサートを行った、テューバ奏者の喜名雅さんとピアニストの新居由佳梨さん。酒田の活動の集大成として、希望ホールでリサイタルを開催しました。今回のリサイタルは世界各国の名曲で構成されています。

当日は、お二人の公演を待ちわびる200人以上のお客様がいらっしゃいました。市内を中心に市外・県外、中には国外からも観客が来場されました。クラスコンサートやアナリーゼワークショップでのお二人の演奏に魅了され、来場された方もいました。

ステージに登場したお二人が最初に演奏したのは、イギリスより、エルガー作曲の「愛の挨拶」です。テューバの温かい音色と愛らしいメロディを喜名さんが優雅に奏でます。一曲目に相応しい名曲です。

演奏を終えると、テューバの音が出る仕組みについて喜名さんがお話します。吹いている時に、舌を「タカタカ…」と動かして音を区切ることができる、タンギング奏法について説明していきます。

次は、この奏法を活かした「チャルダッシュ」。イタリアの作曲家・モンティによる、ハンガリー舞曲を、喜名さんの超絶技巧で魅せます。元々はヴァイオリンの曲ですが、いつもは低音で音楽を支えるテューバの、緩急を繰り返すアトラクションのような演奏に、観客はさらに引き込まれました。

イタリアから北に向かいます。次は、ドイツの作曲家・ワーグナーのオペラ《タンホイザー》より「夕星の歌(ゆうづつのうた)」です。

「夕星とは一番星のことです。愛する人が死へ向かっていく道を明るく照らしてほしいという、切ない想いが込められています」

喜名さんによる曲の説明が終わると、演奏が始まります。伸びやかで優美な旋律の中に、胸をしめつけるようなもの悲しさが漂います。

次はハンガリーから、ロムハーニ作曲の「パラレルス」。

「僕は常に新しいことにチャレンジしたいと思っています。今回1曲新しい曲をやってみようと思い、この曲を選びました」と、喜名さんは語ります。
飄々と駆け回ったかと思えば、甘くゆったりとした雰囲気に変化したりなど、緩急を楽しむことができます。

次はアジアに飛び、中国の伝統的な民謡「茉莉花」です。喜名さんがリサイタルの選曲をしている中で、出会った曲だそうです。

お二人の演奏は茉莉花(ジャスミン)のように甘く、どこか懐かしさも感じ取れます。

続いてはロシアから、バレエ音楽の名曲、チャイコフスキー作曲の《眠りの森の美女》より「ワルツ」です。オーケストラ版をテューバとピアノ版にアレンジして演奏します。華やかな物語の世界が会場に広がります。

ここで名曲の旅は日本に戻ります。次は久石譲作曲「おくりびと~memory~」。喜名さんがリサイタルの選曲をしている中で、酒田が映画「おくりびと」のロケ地であることを知り、プログラムに組み込んだそうです。

庄内平野や鳥海山などの風景が想起される雄大な演奏で、さらに観客の心を掴みます。

前半のラストは、アルゼンチンより、ピアソラ作曲の「リベルタンゴ」です。喜名さんが奏でる鋭く情熱的な旋律が、南米の熱いスピリッツを表現します。

会場の熱狂も高まり、演奏後には割れんばかりの拍手が起こりました。

休憩をはさんで後半1曲目は、喜名さんによる無伴奏ソロ、アメリカの作曲家クラフトの「エンカウンターズⅡ」です。
暗闇から浮かび上がるテューバの音色。かと思えば、すぐに姿をくらまします。
照明演出と、様々な特殊奏法を駆使することによって、独特な緊張感が生み出されました。

息をのむような演奏に続いて、新居さんによるソロ、クライスラー作曲・ラフマニノフ編曲の「愛の悲しみ」です。
ヴァイオリンとピアノのために書かれたものを、今回はピアノ1台で演奏します。
題名どおり非常に感傷的な作品ながらも、聴き手の心を穏やかに包み込むような包容力と独特の情感を持った名曲で、新居さんの演奏によってさらに深く心に染みわたります。

最後は「テューバ協奏曲」です。映画音楽の巨匠として知られ、今なお活躍を続けているアメリカの作曲家ジョン・ウィリアムズによる大作を披露します。
風が吹き抜けるような軽やかさや、海や大地のような壮大さなど、楽章ごとに異なる景色が広がります。

演奏後も鳴りやまない拍手に喜名さんが応えます。

「今回このように演奏する機会をいただき、たくさんの方に聴きに来ていただいて、本当にうれしく思います。ありがとうございます♪」

アンコールは、喜名さんの出身地である沖縄の音楽家、喜納昌吉の代表曲「花〜すべての人の心に花を〜」です。人々の心に平和の花が咲くようにと想いが込められた曲で、コンサートを締めくくります。

コンサート後には、
「金管楽器の演奏を極めたいと思いました。また酒田に来てほしいと思いました」(小学生、喜名さんクラスコンサート訪問校)
「息子がテューバを吹いています。いつも「メロディ吹きたい」とつぶやきますが、可能性に満ちた楽器だと感じました」(40代、アナリーゼワークショップに親子で参加)
「素晴らしい演奏をもっとたくさんの人にきいてほしかったです」(70代)
などの声が寄せられました。

テューバ、ピアノとともに巡った名曲の旅。中々ソロで聴く機会が少ないテューバの生演奏ということもあり、より来場者の記憶に残るリサイタルになったのではないでしょうか。

【プログラム】
〇エルガー:愛の挨拶
〇モンティ:チャルダッシュ
〇ワーグナー:オペラ「タンホイザー」より 夕星の歌
〇ロムハーニ:パラレルス
〇中国民謡:茉莉花
〇チャイコフスキー:眠りの森の美女より ワルツ
〇久石譲:おくりびと~memory~
〇ピアソラ:リベルタンゴ
Intermission
〇クラフト:エンカウンターズⅡ(テューバソロ)
〇クライスラー=ラフマニノフ:愛の悲しみ(ピアノソロ)
〇ジョン・ウィリアムズ:テューバ協奏曲
Encore
〇喜納昌吉:花〜すべての人の心に花を〜

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