酒田市民会館 希望ホール KIBOU HALL

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活動レポート

田中靖人&新居由佳梨 デュオ・リサイタル

希望ホール 大ホール

2023年2月18日(土)

昨年11月酒田市に約1週間滞在し、市内小学校でのクラスコンサート、 希望ホールでのアナリーゼワークショップ(楽曲解析)、ひらたタウンセンターシアターOZでの地域ワンコインコンサートを行った、サクソフォニストの田中靖人さんとピアニストの新居由佳梨さん。酒田での活動の集大成として、希望ホールでリサイタルを開催しました。

リサイタル当日は、市内を中心に、市外・県外から、小学生から80代まで幅広い年代の観客が来場しました。

ステージに登場したお二人が最初に演奏したのは、J.S.バッハ作曲の『ソナタ 変ホ長調 BWV1031』です。3楽章で構成されており、華やかで心地のよい速度の第1楽章、メランコリックかつ情緒あふれる第2楽章、音たちが軽やかに舞う第3楽章と、楽章ごとに異なる表情を見せます。

演奏が終わり、マイクを持った田中さんは、観客に語りかけます。

「酒田に来るのは約3か月ぶりでして、こちらのホールでリサイタルを行うのを楽しみにしてきました。本日はサクソフォンとピアノの音楽をじっくりとお楽しみいただければと思います」

続けて、今回のプログラムとサクソフォンの歴史について説明しました。

最初の曲は、約300年前に活躍していたバッハによって作曲されました。サクソフォンは約180年前に作られた楽器で、バッハの時代には存在していませんでした。もともとフルートとチェンバロのために書かれたものでしたが、今回はサクソフォンの中でも高い音域を出すソプラノサクソフォンとピアノで演奏しました。

2曲目は、 C. ドビュッシー作曲の『小組曲』です。この曲は今から約150年前、ピアノの連弾のために書かれた曲です。今回は、日本の作曲家である長生淳さんが、サクソフォンとピアノ用に編曲したものを演奏します。

「サクソフォンの持つあたたかな音に合った編曲となっています。次はアルトサクソフォンで演奏したいと思います」

この組曲は4曲からなり、やわらかな優美さや弾むような活発さなど、曲によって異なる顔を覗かせます。お二人の変幻自在な演奏が、聴くものをさらに音楽の世界に引き込みます。

演奏を終えた田中さんは、自身がサクソフォニストになったきっかけについて、話し始めました。

田中さんは中学時代、友人に誘われて入った吹奏楽部でサクソフォンと出会います。当時は吹奏楽部に所属しながらもジャズにのめり込み、ジャズミュージシャンを志していたそうです。

高校に進学し、田中さんは自身の進路について考えるようになります。高校の吹奏楽部の顧問の先生からは音大への進学を奨められつつ、音楽雑誌を読んでサクソフォンの勉強をしていたそうです。

前半最後に披露する『ソナタ Op.19』は、そんな将来について悩んでいた時期に出会った、恩師との思い出の曲だそうです。この曲はアメリカの作曲家P. クレストンによって、サクソフォンとピアノのために書かれた曲です。サクソフォンの中では古典といわれる名曲ですが、どこかジャズ的な要素も感じ取れます。

後半は、新居さんのピアノソロで幕が開きます。披露する曲は、G. ガーシュウィンの『ラプソディー・イン・ブルー』です。

「ブルー」の美しい衣装を身にまとい、ステージに登場した新居さんは、曲について語ります。

「今から演奏する曲は、その昔オーケストラと共演した時にも弾いたことがある、思い出の曲です。田中さんのサクソフォンとピアノのデュオとはまた異なる、ピアノソロの魅力を感じながら、ご覧いただければと思います」

約17分にも及ぶピアノソロでしたが、新居さんは最初から最後までエネルギッシュに弾きあげました。新居さんの情感あふれる演奏に、観客からは大きな拍手が送られました。

演奏後の舞台転換が終わり、田中さんと新居さんが再度登場しました。

「すばらしい演奏でしたね。この曲はもともとピアノとオーケストラのために書かれていますが、今回新居さんはソロで演奏しました。今一度新居さんに拍手をお願いします」

と田中さん。会場が再び拍手に包まれました。

後半の2曲目は、鈴木英史作曲の『もう一人のチンギス・ハーン』です。この曲は、モンゴル帝国の初代皇帝チンギス・ハーンをイメージして書かれた吹奏楽の名曲を、サクソフォンとピアノのために編曲したものです。

冒頭は、厳かで民族的なサクソフォンのソロから始まります。徐々に盛り上がりを見せ、軽快なリズムへと変化していきます。まるで草原を騎馬が駆けているかのようです。そして、また曲調が変わり、今度はゆったりとした綺麗なメロディーをドラマチックに奏でながら、クライマックスへとつながっていきます。モンゴルの壮大な大地を想起させます。

そして、プログラムの最後を飾るのは、R.モリネッリ作曲の『ニューヨークの4つの絵』 です。題名のとおり4曲からなる組曲で、今回はその中から第1楽章「美しい夜明け」と第4楽章「ブロードウェイ・ナイト」を演奏します。

第1楽章は、サクソフォンとピアノの繊細で伸びやかな演奏によって、徐々に街に朝日が差し込むような情景が浮かんできます。

第4楽章は雰囲気ががらりと変わり、ニューヨークの華々しい夜の時間が描かれます。煌めく電飾やブロードウェイの熱狂の様子がアップテンポなメロディーで表現されます。

演奏後、田中さんが観客に向けて笑顔で語りかけます。

「11月と今回の滞在で酒田の魅力を知ることができ、私と新居さんの中で大好きな場所になりました。まだまだ行きたい場所がありますので、今度はプライベートでも来てみようかなと思います」

観客の拍手に応えて披露したアンコール曲は、 ロルフ・ラヴランド作曲の『ユー・レイズ・ミー・アップ』。素朴ながらも力強く感動的な旋律が、聴くものの心を震わせます。

アンコールを終えた後も拍手は鳴りやまず、お二人は続けてG.ガーシュイン作曲の『魅惑のリズム』 を披露します。

「ジャジーな雰囲気の素敵な曲ですので、どうぞお楽しみください。本日はありがとうございました」

と田中さん。題名どおりの遊び心のあるユニークなメロディーに、会場が酔いしれます。

終演後のアンケートでは、

「今回の演奏で音楽がさらに好きになりました。中学校に入ったら、吹奏楽部に入ってがんばりたいと思います」(小学生)

「プロのサクソフォン奏者の方の演奏を初めて生で聴いて、とても勉強になりました。楽しかったです」(中学生)

「平田でのミニコンサートもよかったですが、希望ホールで音が響いて、音色がとても素敵でした。選曲も大好きな曲が多く、うれしかったです」(40代)

「もともとアメリカの本場に聴きに行くくらいジャズが好きでしたが、今回の演奏のおかげで、ジャズ以外の音楽の世界の良さを知った気がします」(50代)

「アルトサックスの多彩な音響、そしてピアノのからみ合いがステキでした。『ラプソディー・イン・ブルー』は、聴きなれたものとは全く違う重厚さに感激でした」(80代)

など、喜びの声が多く寄せられました。

田中さんと新居さんの演奏が創り出す大人の世界に、たっぷりと浸ることができた1日となりました。


【プログラム】

○ J.S.バッハ:ソナタ 変ホ長調 BWV1031

○ C. ドビュッシー(長生 淳 編曲):小組曲

○ P. クレストン:ソナタ Op.19

○ G. ガーシュウィン:ラプソディー・イン・ブルー (ピアノソロ)

○ 鈴木 英史:もう一人のチンギス・ハーン

○ R.モリネッリ:『ニューヨークの4つの絵』より

 第1楽章「美しい夜明け」

 第4楽章「ブロードウェイ・ナイト」

〈アンコール〉
○ ロルフ・ラヴランド:ユー・レイズ・ミ―・アップ

○ G. ガーシュウィン: 魅惑のリズム

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