活動レポート
SAKATAアートマルシェ2021
2021年9月14日(火)~26日(日)
2019年の開催から、皆様に親しまれてきたSAKATAアートマルシェ。4回目となる今回は、企画展として、酒田が誇る漫画家 佐藤タカヒロ氏の漫画原画展と、昨年度も好評の、障がい者の方々と一緒に作りあげる作品展「いいいろいろいろ」展を開催しました。さらに、地域の宝である黒森歌舞伎、酒田舞娘の演舞や、酒田吹奏楽団によるミニコンサート、ワークショップなど、市民に気軽にアートにふれて楽しんでいただける様々なイベントを実施しました。
■佐藤タカヒロ漫画原画展 酒田市美術館市民ギャラリー
2021年9月14日(火)~26日(日)
本展は、酒田出身の漫画家 故佐藤タカヒロ氏(2018年没)の画業を振り返り、全国の人々に愛された漫画家の生涯と作品を紹介するものです。既に前年に氏のご遺族から酒田市美術館で原画展示ができないかとのご相談をいただいており、一年越しでアートマルシェの企画として開催されました。
作品の選定にあたっては、佐藤氏夫人の七々子さんはじめ遺族の方々、元制作スタッフの方々と酒田市美術館学芸員が協議を重ね、多くの原画から厳選の結果、約90点とすることが決まりました。制作年代順に、2004年作の柔道漫画『いっぽん』から、2009年に本格的相撲漫画としてスタートした『バチバチ』、前作に続く『バチバチBURST』、そして作家最後の作品となった『鮫島、最後の十五日』の全4作を展示。酒田市美術館では、通常絵画作品の展示の際は、床高145cmに作品中央が来るように展示していますが、今回はより多くの作品を見ていただくために、145cmを中心として、上下10cmでの2段掛けで展示しました。
市民ギャラリーの右奥には、生前の佐藤氏の仕事部屋が忠実に再現されました。氏が実際に制作に使用した大型の机、大きな背凭れの革張りの椅子を中心に、作家の手の届く絶妙の距離に置かれていたであろう絵具、パステル、色鉛筆といった様々の画材が置かれた棚、自身のコミックスが全巻並んだ書架も配置され、壁には氏の愛用していた釣り竿が斜めに2本飾られました。「作家はさっきまでここで仕事していたが、たまたま外出中」と見ることもできます。
佐藤氏は生涯「手描き」による漫画制作にこだわり続けた作家として知られ、その高度な技術に裏付けられた精密なペンタッチから生み出される数々のキャラクターは、年を追うごとに凄味と共に美しさを増しています。絶筆となった『鮫島、最後の十五日』最終巻の未完ページにおいては、持てるエネルギーの全てを制作に注ぎ込んだ作家本人と、千秋楽を前に、場所初日からの壮絶な闘いにより、肉体の限界を既に超え、いつ倒れても不思議でない状態にもかかわらず、戦う本能が研ぎ澄まされ、ギラギラした眼光で横綱に対峙する主人公 鮫島鯉太郎が一体化しているとの印象を抱く人も多かったのではないでしょうか。
期間中、1,670人の方々から来場いただきました。作品を前にした皆さんは、魂を込めて描かれた原画の一点一点に見入り、その迫力と美しさ、存在感に圧倒されていました。
未完ゆえに鮫島鯉太郎は永遠に死なず、作品がある限り、人々は佐藤タカヒロ氏という不世出の漫画家の存在を忘れることはないでしょ
う。
■トークイベント「漫画家 佐藤タカヒロを語る」 酒田市公益研修センター大ホール
2021年9月19日(日)
出演:株式会社秋田書店 週刊少年チャンピオン編集部 松岡秀和氏
さかた文化財団 学芸員 井上瑠菜
佐藤タカヒロ氏の担当編集者 株式会社秋田書店の松岡さんと、佐藤タカヒロ漫画原画展の企画・展示を担当した、酒田市美術館学芸員井上さんとのトークイベント。東京の秋田書店と、酒田市公益研修センターをzoomで繋ぎ、松岡さんからはリモートでご出演いただきました。県外からも大勢の佐藤タカヒロファンが駆け付け、会場内は開演前から盛り上がりを見せていました。
松岡さんは、最初に佐藤氏の作品制作の様子について語ってくださいました。当時、酒田にいる佐藤氏と東京の松岡さんとは、電話で制作打合せを行うことが多く、お二人は納得がいくまで、電話で何時間も作品について語ったそうです。漫画に関することとなると、佐藤氏は自分にもアシスタントにも非常に厳しく、妥協を一切許さないストイックな姿勢を見せる反面、とても優しい方でアシスタントの皆さんの面倒をよくみてくれたとのこと。会場に来場していたアシスタントのお二人も、当時の佐藤氏との思い出や、特徴的な原画についてその背景にある制作の秘話をお話ししてくださいました。
学芸員の井上さんは、インクの盛りやペンさばきの繊細さなどに注目し、原画から分かる佐藤氏の情熱、作品と向き合う真摯な姿勢について専門的な観点から解説しました。また、デジタル化が進む中、「原画」が持つ価値とその重要性・貴重性について熱意を込めて説明し、多くの来場者が頷きながら井上さんのお話に聞き入っていました。
後半、松岡さん対する質問コーナーでは、来場者からトークイベントに参加してくださった松岡さんへの感謝の言葉を頂くとともに、「アニメ化の予定は?」など多くの質問が寄せられました。
予定していた1時間半はあっという間に過ぎ、最後に佐藤氏のご家族からご挨拶をいただいて、来場者の心に温かな余韻を残しながらトークイベントは終了しました。「トークイベントに参加したら、もう一度原画を見たくなった。また美術館に見に行きます。」 そう話す来場者の熱気を帯びた笑顔がとても印象的でした。
■いいいろいろいろ展
酒田市出羽遊心館
2021年9月18日(土)~26(日)
酒田市在住の障がいのある方々が制作した、絵画、書道、造形物など126点のアート作品、酒田市出身の作家 佐藤真生さんと障がいのある方々との共同作品の展示会。自由で多様な表現、無限に広がるアートの力が会場に溢れました。
今回で4回目となる展示会には、17の障がい者団体が参加しました。やまがたアートサポートセンターら・ら・ら、酒田市社会福祉協議会、佐藤真生さん、アートディレクターの中島友彦さんのご協力をいただきながら、作品を通して作者の人柄や個性、魅力を発信できるよう、創意工夫を繰り返し展示会に臨みました。7月・8月には、作品制作・展示についてのワークショップを開催し、参加団体の皆さんが持ち寄った作品を制作風景などの話をお聞きしながら全員で鑑賞。展覧会に向けてのアイディアを出し合いました。
出羽遊心館の展示では、茶室や廊下、床の間など、背景と融和させたり違いを際立たせたりしながら広がりのあるアート空間を作り上げました。どの作品も、その魅力を最大限に発信できるよう心掛けながら展示しました。色鮮やかな絵画、鉛筆のみで描かれた緻密なデッサン、迫力のある書や、神秘的な造営物など、多種多様なアートが出羽遊心館全館に溢れました。様々な手法で表現された作品は、観る人に命の躍動感を感じさせるとともに、表現活動の大切さを訴えかけていました。
佐藤真生さんと障がいのある方々との共同作品「夢傘福」は、庄内の傘福文化をベースとして伝統の手すき和紙を材料に用い、それぞれが制作したパーツを組み合わせて制作されたアート作品です。手すき和紙で伝統の大切さと時間のつながりを表現し、糸でつながれたパーツは個性を認める多様性の大切さと人と人がつながることの大切さを表現しています。
期間中、652人の方々から来館していただき、また数多くのボランティアスタッフからご協力をいただきました。人と人とのつながりの大切さ、アートと通して自己を表現することの重要性を発信する展覧会となりました。
■ワークショップ 【かわいくておいしい!アイシングクッキーを作ってみよう!】
日本サロネーゼ協会アイシングクッキー認定講師の佐藤あみさんを講師にお迎えして、親子30組がアイシングクッキーを作りました。
今回作ったのは、リス・リンゴ・ドングリの形をした3種類のクッキーです。予め佐藤さんが焼き上げてきた庄内米の米粉を使ったクッキーに、砂糖と卵白でできた3色のアイシングを使ってそれぞれ模様を描いていきます。
初めに、練習用の紙にアイシングで線を描く練習をしていきます。一見すると簡単そうに見えますが、力加減が難しく、多くの参加者はまっすぐに線を引くことができず、苦戦している様子です。
線を描く練習の後は、いよいよクッキーの上に模様を描いていきます。
最初は固めのアイシングでクッキーの外側を縁取ります。「線がガタガタになる~!」「はみ出た!」などの声が聞こえながらも、なんとか縁取りができました。
続いて柔らかめのアイシングで、縁取った線の内側を塗っていきます。「ぷっくりと盛り上げた方が、見た目が可愛く仕上がりますよ」との佐藤さんのアドバイスを受けて、参加者は思い思いに作業を進めていきます。最後は顔や手などのパーツを描いていき、作り始めてから40分ほどで完成しました。真剣な面持ちでリスやドングリの表情を描いていく参加者でしたが、クッキーが完成すると満面の笑顔になり、それぞれ嬉しそうに「難しかったけど可愛くできて嬉しかった」、「食べるのがもったいない」など、感想を話し合ったり、自分のクッキーを熱心に撮影したりしていました。
■ワークショップ【しかけがいっぱい!コロコロ迷路をつくろう!】
公益研修センター 中研修室2
2021年9月18日(土)1回目10:00~ 2回目14:00~
東北芸術工科大学准教授松村泰三さんを講師にお迎えし、工作ワークショップを実施しました。箱の中に段ボールやモール、発砲スチロールなどを使って様々な仕掛けを作り、その中でビー玉を転がして遊ぶ「コロコロ迷路」作りに、計43名の方々が参加しました。
はじめに、松村さんが事前に作ってきた迷路を見ながら、迷路づくりのポイントや、素材にあった取り付け方の説明を受け、各々自分だけの迷路を作っていきます。
小学生以下の子どもと保護者の2人で、1つの迷路を作る参加者が多く、家族で協力しながらどんな迷路を作ろうか相談しながらの作業となりました。初めのうちは手が止まっていた参加者ですが、イメージが固まった後は、絵を描いたり、モチーフを作ったりしながら理想の迷路に近づけようと、とても集中している様子がうかがえました。特に、滑り台やプロペラが回る障害物といった仕掛けを作る際には、保護者も一緒に材料を組み合わせて試行錯誤したり、松村さんに「こんな仕掛けを作りたいがどうしたらできるか」と相談したりして、それぞれが思い描く仕掛けを作っていました。開始2時間程度ほどで、参加者それぞれが思い思いの装飾や仕掛けを施した、世界にひとつだけの迷路が出来上がりました。
参加した方からは「子どもの自由な発想で大人でも楽しめた」「色々な材料も用意されていて思いっきり活動できた」などの感想が寄せられました。
■酒田吹奏楽団ミニコンサート
公益研修センター ホール
2021年9月20日(月・祝)10:30~
酒田吹奏楽団は、今年度、第64回東北吹奏楽コンクール職場・一般の部において金賞を受賞し、36年ぶりに東北代表として全国大会出場の切符を手にしました。その吉報がもたらされたタイミングで、酒田吹奏楽団による、アンサンブルコンサートがSAKATAアートマルシェで開催されました。
前半のサックス4重奏では、サックスのためオリジナル曲『Good Summer Pictures』が演奏され、どこか郷愁を感じるメロディアスな旋律が会場中を包み込みました。そのほかにもポップス曲『Pretender』や『Happiness』など、誰もが一度は耳にしたことのある曲に、会場のお客様は時折体を揺らしたり、手拍子を打ったりしながら聴き入っていました。
続いて、後半は金管5重奏と打楽器によるステージです。暖かみのある金管楽器の音色に会場中が惹きこまれます。『ルージュの伝言』や『秋桜(A.sax Feature)』、『追憶のテーマ(A.sax Feature)』『雪国』が演奏されました。
アンコールは、金管5重奏による『年下の男の子』。演奏終了後は、客席から割れんばかりの拍手が起こり、お客様とステージが一体となった素敵な時間となりました。
アンケートでは「素敵な演奏で、もっと聴いていたかった」「コロナ禍で生のコンサートに行くことができず寂しく感じていたが、久しぶりに演奏を聴いて心が豊かになったと感じた」との感想が聞かれ、来場者の心に残るコンサートとなった様子でした。
■酒田舞娘による演舞
酒田市出羽遊心館
2021年9月20日(月・祝)11:30~
酒田市のPR活動や、観光地としても人気の相馬樓を中心としたお座敷などで日々活躍されている「酒田舞娘」が踊りを披露し、37名の方が来場されました。
相馬樓の前身「相馬屋」は、江戸時代から200年続いた料亭で、北前船の往来で栄えていた当時、酒田には約150人の芸妓や半玉がいたものの、次第に減少していきました。その後1990年に町おこしの一環として「舞娘さん制度」が創られ、「酒田舞娘」としての活動が始まりました。
「相馬屋」は1995年に閉店しましたが、その翌年、国の登録無形文化財に指定され、2000年には「舞娘茶屋 相馬樓」として生まれ変わりました。現在、酒田舞娘のみなさんは、酒田で受け継がれてきた伝統を広く発信する貴重な存在として活躍しています。
この日出演したのは、舞娘の小夏さんと一千花さん、芸妓の小鈴さんの3名。出羽遊心館の檜舞台で、山形県立酒田特別支援学校生徒が制作した大きな絵を背景に、酒田舞娘の紹介を交えながら、酒田になじみのある「酒田甚句」やお座敷歌「ぎっちょんちょん」などの演目を披露しました。
舞娘の可愛らしい掛け声や艶やかな舞い、小鈴さんの力強い三味線の音としっとりとした歌声は、和風建築が心地よい出羽遊心館の雰囲気とも相まって、華やかな空間になりました。曲に合わせて自然に手拍子が湧き、また、小鈴さんの絶妙なトークで笑いが起こったりする場面もありました。来場した方からは、「郷土の誇りだ」「初めて演舞を見たがとても素晴らしかった」などの感想が寄せられました。
■黒森歌舞伎
酒田市出羽遊心館
2021年9月20日(月・祝)
酒田市黒森地区で、雪中の地芝居として280余年、歴史を重ねてきた「黒森歌舞伎」。この日は黒森歌舞伎妻堂連中の座員の皆様からご協力を頂き、出羽遊心館の美しい檜舞台を使って、その一節が上演されました。
上演に先立ち、酒田市社会教育文化課文化財係職員が、『神に捧げる地芝居~黒森歌舞伎の1年』、『黒森歌舞伎ポーランド公演の軌跡』と題して、黒森歌舞伎の魅力を動画上映を交えながら解説。ポーランド公演の動画は今回が初公開でした。会場の皆さんは、貴重な動画と興味深い説明に、夢中になって聞き入っていました。
五十嵐良弥座長のご挨拶の後、いよいよ『義経千本桜 伏見稲荷鳥居前の場』の出端(でわ)が始まりました。おはやし部の迫力ある演奏と掛け声の後、会場の下手から大きな声が聞こえるとともに、忠信(実は大和の狐)が一気に遊心館の広間を駆け抜け檜舞台に駆け上がりました。舞台中央で代表的なポーズ『狐の六方』を披露すると、会場は割れんばかりの拍手に包まれました。出羽遊心館の優美な建物・庭園と、黒森歌舞伎の荘厳な強さ・美しさが共創した、すばらしい公演となりました。