酒田市民会館 希望ホール KIBOU HALL

bg

活動レポート

新倉瞳&佐藤芳明DUOリサイタル

チェリスト新倉瞳さん、アコーディオニスト佐藤芳明さんに、ゲストとしてバイオリニストの原田陽さんをお迎えして開催した、「新倉瞳&佐藤芳明DUOリサイタル」。古典から現代、民族音楽までの、幅広いジャンルの楽曲が並びます。

新倉さんと佐藤さんは、今年7月酒田市に1週間滞在し、市内小学校でのクラスコンサート、松山城址館でのミニコンサート、希望ホールでのアナリーゼワークショップを行いました。

9月17日、リサイタル当日は、市内外から観客が来場し、中には、今年7月のクラスコンサートで訪問した小学校の児童が、保護者の手を引いて嬉しそうに座席に着く様子も見えました。

ステージに新倉さんと佐藤さんが登場。サン=サーンスの『動物の謝肉祭』より「白鳥」です。チェロとアコーディオンの調べにより、穏やかな水面に降り立った一羽の白鳥のたおやかな情景が、目の前に広がります。最後の一音が消え入ると会場には大きな拍手が起りました。

マイクをとった新倉さんは、今年7月の酒田での活動について話してくれました。

「今日は、クラスコンサートで会ったお友だち、アナリーゼワークショップで会った方々、そして初めてお会いする方も、遠方から来てくれた方もいらっしゃいます。長いようで短い、あっという間の時間ですが、どうかよろしくお願いします」

2曲目の、ヘンデル作曲『ハープシコード組曲第1集』第7番 ト短調より「パッサカリア」について、佐藤さんが「卵」料理に例えて説明します。

「卵は、生でもオムレツでもゆで卵でも食べますね。この曲は、まるで卵料理のように、一つのテーマが次々と形を変えて現れる曲です」

6つのメロディーが次々と形を変え、15の変奏で奏でられます。永遠に続くかのようなドラマティックなメロディーと美しい重厚な和音は、聴く者を幻想の世界に誘います。

3曲目は佐藤さん作曲の「2つの楽器のための2つのカノン」。チェロとアコーディオンによって何層にも重なる広がりのある響きと、後半の躍動感あふれる、エネルギッシュで迫力ある演奏が印象的です。

次の曲はクレズマーより「ニグン」、「コロメイカ」です。「ニグン」はヘブライ語で「歌う」を意味する祈りの歌です。新倉さんの美しいアカペラで始まると、その歌声にチェロが、続いてアコーディオンが加わり、哀感に満ちた音色が広がります。その後、「コロメイカ」で場面が一転し軽快で力強い舞曲に変わると、ホール全体に東ヨーロッパの華やかで情緒豊かな景色が蘇ります。

前半最後の曲は、バルトーク作曲「ルーマニア民俗舞曲」です。チェロとアコーディオンの郷愁を感じさせる印象的な響きが、独特の雰囲気を生み出し、6つの異なる舞踏の風景を見事に表現します。

後半は、バイオリニストの原田陽さんを迎え、ベルターリ作曲の『チャッコーナ』から始まります。

主旋律を奏でるバイオリンの軽やかで繊細な音色を、チェロとアコーディオンが温かく包み込み、多様に変奏しながら展開を続けます。芳醇な響きがホールに満ちていきます。

演奏の後、3人はマイクを持ち、酒田滞在中の印象に残っている出来事、おいしかった食べ物などについて、とても楽し気に話してくれました。

原田さんが最後の曲目を紹介します。

「次に演奏する曲は、400年ほど前、バッハの弟子ゴルトベルクが作曲した変奏曲です。原曲はチェンバロという楽器一つで演奏するものですが、今回この3人の編成で演奏するよう編曲しました」

「この曲には、実は逸話があります。ゴルトベルクが当時仕えていた伯爵は不眠症を患っており、その伯爵を眠らせるために、ゴルトベルクが同じメロディーを毎晩、形を変えて演奏し続けてできた曲だ、というものです」

「我々の演奏で、どうか眠っていただければ」

という佐藤さんの声掛けに、会場からは笑い声が起りました。

3人の細やかで息の合った演奏が、17世紀ヨーロッパの荘重で絢爛たる世界に観客を誘います。展開するそれぞれの変奏は、まるで次々と美しい絵画を観ているかのようです。重厚な旋律が会場に響き渡りました。

鳴りやまない拍手に、新倉さんが笑顔でお話します。

「7月に酒田に来て、とても長い時間をここで過ごしました。今日の演奏会で酒田が最後かと思うととても寂しいですが、皆さんとまたお会いできることを楽しみにしています」

アンコール曲はヘンデル作曲 オペラ『リナルド』より「私を泣かせてください」。原曲はソプラノのアリアで、恋人への一途な想いを歌う美しい曲です。新倉さんが庄内弁で曲名を紹介します。

「『わたしどご、泣がせでくれ』。・・・駄目でしょうか?これで伝わってますか?」

新倉さんの感情豊かで絶妙なイントネーションの庄内弁に、会場からは拍手が起ります。

3人の奏でる甘く切ない旋律が、観客を魅了します。表情豊かな演奏により、恋人と引き裂かれた主人公アルミレーナが自らの悲運を嘆くオペラのワンシーンが、ステージ上に繰り広げられているかのようです。恋慕の情に満ちた美しい音色に、会場が包まれました。

終演後、ホワイエで行ったサイン会には、多くの観客が列をなし、短い時間ではありましたが、新倉さん、佐藤さん、原田さんとのふれあいを心から喜んでいる様子でした。中には、手作りのプレセントを持参した方、自身のアコーディオンにサインを書いてもらう方もいました。

error: