酒田市民会館 希望ホール KIBOU HALL

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活動レポート

高橋多佳子 生で聴く 「のだめカンタービレ」の音楽会 ピアノ版

希望ホールでは、初めての開催となった「『のだめカンタービレ』の音楽会」。今回はピアノ版での開催となりました。ピアノは、高橋多佳子さんの演奏です。高橋さんは今年度、酒田市の地域施設(八幡タウンセンター)でのミニコンサート、 「『のだめカンタービレ』の音楽会」 のプログラムについて解説をするアナリーゼワークショップを行いました。さらには、県内外から受講者を募集し、高橋さんが直接ピアノの指導を行う公開レッスンも実施しました。

「『のだめカンタービレ』の音楽会」は、原作漫画の名シーンが、美しい演奏とスクリーンに映し出される映像により再現される人気公演です。

開演となり会場が暗くなると、まずスクリーンに映し出されたのは、本作の主人公・のだめと千秋の出会いのシーン。続けて、ベートーヴェンの「ピアノ・ソナタ第8番ハ短調作品13《悲愴》より 第2楽章」の演奏が始まります。二人を引き合わせるきっかけとなった曲です。

まるで歌うように美しい演奏が、観客を魅了します。

高橋さんは演奏を終えると、「『のだめカンタービレ』の音楽会」について紹介し、

「本日は皆さんと『のだめカンタービレ』の世界にどっぷり浸かりたいと思います」

と笑顔で語りました。

次に演奏する曲は、こちらもベートーヴェンの「交響曲第3番 変ホ長調 作品55 《英雄》」です。この曲は、千秋がオーケストラ(千秋らが通う大学内で結成された「Sオケ」)での指揮者デビューで成功を収める作品です。千秋の指揮者デビューは決して順調なものとは言えず、行き詰まってしまった彼を助けたのが、のだめが耳コピで暗譜した、自由に演奏する《英雄》でした。

先にオーケストラ版の《英雄》のCDを流した後、高橋さんがのだめ版の《英雄》を実際に弾いてみせます。スクリーンに映る、自由に楽しく演奏するのだめと、ステージ上の高橋さんが重なります。

高橋さんは演奏後、

「ピアノは、交響曲でもどんな楽曲でも弾くことができる、楽しい楽器です。誰でも音を出すことができるので、まだ触ったことがない方は、ぜひ触ってみてください」

と語りました。

続いては、 ショパンの「幻想即興曲 嬰ハ短調 作品66 (遺作) 」です。

原作の番外編で、のだめの幼少期のピアノの先生であるリカちゃん先生が弾いていた曲です。左右でリズムが異なり、疾走感あふれる華麗な響きの主題が印象的です。

そして、前半の最後を飾るのは、 ガーシュウィンの「ラプソディ・イン・ブルー」です。 のだめと千秋が通っている大学の文化祭で、のだめがSオケと共演したステージの楽曲です。ジャズによく用いられる音階のフレーズが登場したりなど、協奏曲の中でも特異な名曲です。

高橋さんは、のだめがそのステージでマングースに扮していたことにふれ、実は開演時からずっとステージ中央で会場を見守っていたキャラクターを紹介。こじんまりとしたマングースにスポットが当たります。高橋さんがマングースを押して「ギャボ」と可愛らしく鳴くと、観客からは笑いが起こりました。

「楽しんで弾くので、頑張って聴いてください♪」

と、のだめ風に挨拶して、高橋さんは演奏に入りました。どこか物憂げで、美しい旋律が会場を包み込みます。

後半に演奏する1曲目は、 ドビュッシーの「喜びの島」です。 この曲は のだめ風 に言うなれば、「恋しちゃってルンルン♪」な曲。

高橋さんは、

「ドビュッシーは 南の島で恋人とバカンスを過ごし、ルンルンな気持ちでこの曲を書いたと言われています」

と、作曲当時の逸話を紹介しました。ワトーという画家の《シテール島への船出》という作品に着想を得て作曲されたと言われており、 航海していたり、浜辺でゆっくりくつろいでいたりなど、まるで冒険のようなワクワクする場面が連続します。

演奏中のスクリーンには、のだめと千秋が愛を深めるシーンが映し出され、見事に曲とリンクしていました。

続けて演奏するのは、ストラヴィンスキーの 「《ペトルーシュカからの3楽章》より第1楽章《ロシアの踊り》」。この曲は、先の「喜びの島」と同じく、のだめが「マラドーナ・ピアノ・コンクール」で演奏した曲です。高橋さんは今回、のだめ版の「ペトルーシュカ」を再現してくれました。

ストラヴィンスキーがロシア・バレエ団のために書いたと言われている、非常に躍動的な難曲で、出だしから目くるめく超絶技巧と平行和音が連続します。

高橋さんは演奏を進めていましたが、途中で手を止めます。すると、次に演奏したのはなんと、「きょうの料理」のテーマ曲。会場からは笑いが起こります。そして再び「ペトルーシュカ」に戻るも、またもや「きょうの料理」に、行ったり来たり…。

原作で、コンクールに向けた特訓の過労により倒れてしまったのだめは、この曲の暗譜と練習が間に合いませんでした。それでも諦めず、会場へ向かう電車でも暗譜している中、偶然流れてきた「きょうの料理」の音色と混ざってしまい、コンクール本番では第2楽章の冒頭まで違った旋律を演奏してしまいます。

高橋さんは演奏を終えると、

「こんな大きなホールで、思いっきり間違えて演奏しても良いんだと思うと、嬉しくなっちゃいました」

と微笑みます。とてもユーモア溢れるプログラムに、会場からは大きな拍手が沸き起こりました。

ラスト2曲を前に、高橋さんは改めて原作「のだめカンタービレ」の魅力を語ります。原作は、2001年に雑誌で連載が始まり、連載終了後も今なお愛されている、テレビアニメ化やドラマ化、実写映画化もされた大人気漫画です。

「この 『のだめカンタービレ』という作品は、とにかくリアルです。我々音楽家の生態をとてもよく表現していますし、音楽家の悩みや喜びなども描かれているので、単に笑えるというだけでなく、とても感動してしまいます。まだ読んだことがないという方は、ぜひ読んでみてください 」

と、高橋さんは話しました。

ラスト2曲は、のだめと千秋が留学してからのストーリー「パリ編」にちなんで、ラヴェルの楽曲です。

まず演奏するのは、「亡き王女のためのパヴァーヌ」。千秋が留学した後に挑んだ国際指揮者コンクールで指揮した作品です。

作曲当時、ラヴェルはまだパリの音楽院に在学していました。「パヴァーヌ」とは、当時ヨーロッパで普及していた踊りのことであり、優雅で、かつ繊細さが表れている美しい楽曲です。ゆったりとした幻想的な世界が広がります。

そして、プログラムのラストを飾る曲は「ラ・ヴァルス」です。ラ・ヴァルス」とは、フランス語で「ワルツ」のことで、元々オーケストラのバレエ音楽として作曲されました。

ラヴェルは、第一次世界大戦に従軍したことにより、心に深い傷を負い、さらには、母との死別という悲しい経験に立て続けに見舞われます。

そんなラヴェルの想いを表す不穏な音色からこの曲は始まります。それから曲名の通り、次々とワルツが登場してきます。このまま華やかな雰囲気が続くのかと思いきや、後半は様相が変わり、怒涛の展開を経て爆発的なクライマックスへと至ります。まるで、爆弾が落ちる音や銃声が轟いているかのようです。

高橋さんは、

「後半の展開は、ラヴェルの戦争体験が影響しているのではないかと思います。難曲ですが、その背景には人々の喜びや悲しみを感じ取ることができる、とても味わい深い曲です」

と、解説しました。

演奏が始まると、スクリーンでは漫画でのオーケストラの演奏シーンや作曲の背景などが紹介されました。

本編が終了すると、会場が盛大な拍手に包まれました。高橋さんは拍手に笑顔で応え、アンコールに入ります。

アンコールは、ドビュッシーの「月の光」。

スクリーンに映し出されるのは、‟月”にちなんだ、のだめと千秋の名場面。二人の距離がさらに近づいていく、ロマンチックなシーンです。月の光に照らされているかのような柔らかな雰囲気が、会場を満たしていきます。

弾き終えた高橋さんは、

「また酒田に来る機会があると思いますので、お楽しみにしていただければと思います。来年には酒田で、ラフマニノフを演奏する予定です」

と話すと、会場からは大きな拍手が沸き起こりました。

高橋さんは、ラフマニノフの「ピアノ協奏曲 第2番 ハ短調 作品18 第3楽章より(抜粋)」を、アンコールの2曲目として披露しました。体全体を使った圧巻の演奏で、「『のだめカンタービレ』の音楽会」を締めくくりました。

アンケートでは、

「子どもたちが聴きたいというので、コンサートに続いて、本日も来てました。ピアノの音やハーモニー、重層感にとても引き込まれます。また酒田に来ていただける機会を楽しみにしています」

「オーケストラをピアノ1台で表現するなんて驚きです。素晴らしい演奏を聴くことができて、最高の1日でした」

など、数々の喜びの声が寄せられました。

「のだめカンタービレ」の世界と、高橋さんの華麗な演奏にたっぷりと浸ることができた1日となりました。

【プログラム】

○ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第8番 ハ短調 作品13 《悲愴》より 第2楽章

○ベートーヴェン:交響曲第3番 変ホ長調 作品55 《英雄》第1楽章抜粋

○ショパン:幻想即興曲 嬰ハ短調 作品66 (遺作)

○ガーシュウィン:ラプソディ・イン・ブルー

○ドビュッシー:喜びの島

○ストラヴィンスキー:《ペトルーシュカからの3楽章》より第1楽章《ロシアの踊り》

○ラヴェル:亡き王女のためのパヴァーヌ

○ラヴェル:ラ・ヴァルス

〈アンコール〉

○ドビュッシー:月の光

○ラフマニノフ:ピアノ協奏曲 第2番 ハ短調 作品18 第3楽章より(抜粋)

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