活動レポート
大駱駝艦 田村一行さん 小学校舞踏ワークショップ
2022年12月14日(水)
酒田市立八幡小学校
舞踏カンパニー 大駱駝艦の舞踏家、田村一行さんが、酒田市内小学校6校を訪問し舞踏ワークショップを行いました。
田村さん、アシスタントの皆さんは、12月12日(月)から本市に滞在し、15日までの4日間で浜田小学校、平田小学校、松山小学校、新堀小学校、八幡小学校、亀ケ崎小学校の6校を訪問。今回は八幡小学校6年生28名に向けて行ったワークショップの様子をレポートします。
体育館入口前に集まった生徒に、自己紹介する田村さんと大駱駝艦のメンバーで、今回アシスタントを務める阿蘇尊さん。

田村さんがお話します。
「みんな、ダンスって聞いて何を想像する?ストリートダンスや、バレエ、日本舞踊とかいろいろあるよね。こういうのはどう思う?」
田村さんが、田植えを行う人を表現します。日に照らされ汗を拭きながら、腰を曲げて苗を手植えしています。
「田植えする人の様子、自分の年老いた父親が歩行器を使って歩く姿、強風で木々が揺れる姿、全部ダンスみたいに感じるよね。ダンスや表現は日常のいろいろなところにあります。今日は様々な身体の動かし方、表現の仕方があることをみんなに伝えたいと思います」
「今日のワークショップには約束事があります。この90分間はへたくそにやってください。たくさん失敗をしてください。『上手に、褒められるように』とはやらないで、楽しく、自分なりに考えて自由に表現してみましょう」
田村さんが、お話の後、子どもたちを体育館に誘導します。
「今日はみんなのために、お人形を二つ持ってきました。体育館の中にあります!!入ってみましょう」
子どもたちが興味深々で体育館に入ると、そこには白い防汚服を着た2体の人形が立っています。田村さんが見えない糸を引っ張ると、糸につられて人形が動きます。
「みんなも動かしてごらん!」
田村さんに促され、子どもたちも恐る恐る見えない糸を引っ張ります。人形たちが動く度に、大きな歓声があがります。


人形に扮していたのは、同じく大駱駝艦のメンバーでアシスタントの小田直哉さん、鉾久奈緒美さん。
改めて田村さんが挨拶します。
「自分たちは、東京のダンスカンパニー大駱駝艦に所属しています。この団体は、今年で50周年を迎え、自分は25年間、ここで活動しています。大駱駝艦のメンバーは、今日のように全国の小学校や中学校を訪問してダンスワークショップを行ったり、ヨーロッパなど世界各地を回って、舞踏公演を行ったりしています」
4人が舞踏の動きを披露します。独特の動き、力強く、躍動感あふれる踊りに、子どもたちはくぎ付けです。

大駱駝艦が以前紹介されたテレビ番組をモニターに映し、田村さんが舞踏ステージの様子を解説します。画面上で、所狭しと表現を繰り広げる、全身白塗りの舞踏家たち。
田村さんがお話します。
「一言でいうと『裸とは最高の衣装』です。みんな今、座っている姿も表現です。骨や肉の付き方、姿勢など、自分の身体は独自のもので、親や祖父母、曽祖父母、そのもっと昔の祖先からいただいた大切な宝物です。私の師匠は『何十億年間、様々な奇跡が繋がって人は生まれている。だから生まれてきたこと自体がものすごい才能なのだ』とよく話します。今日は、この奇跡である自分の身体を、探っていきましょう」
最初は身体をほぐす体操です。自分の体重で負荷をかけながら、アキレス腱、首の左右、前後と順番に伸ばしていきます。
続いて、四つん這いになり、お腹に入っている風船が膨らんだりしぼんだりするのをイメージしながら背中全体を大きく膨らませていきます。ピンポン玉が背中を這っているのをイメージして、どのようにピンポン玉が動くか想像しながら、普段動かさない身体の裏側をほぐしていきます。
「首や背中などに、無意識に力が入っていると、上手く動きません」


次に、自分の身体のくせを知る体験です。田村さんが説明します。
「みんなのやることはとても簡単。床に貼ってある白いビニールテープの上に立って、元気に足踏みしてください。ただし、目をつぶってです。自分が『いいよ』と声をかけるまで続けてください!」
目をつぶり20秒間足踏みを続けます。

「目を開けてごらん」
田村さんの声かけで、足踏みを止め目を開けた子どもたちは、足元を見てびっくり。最初に立っていた位置から、ほとんどの人が大きく動いています。
「位置がずれるのは、人にそれぞれ、体の癖があるからです。例えば、『腕を組む』、『鞄を持つ』、『ガムを噛む』など日常の様々な動作が、無意識のうちに、体の左右どちらに偏ってしまっているので、時々自分の身体の癖を気にしてみてください」
続いて
「力を入れることは普段いっぱいしていると思います。逆に今日は、『力を抜くこと』をたくさんしてみましょう」
田村さんが次の動作を説明します。子どもたちは上向きで寝ころび、力を抜きます。

「この運動は、年齢に関係無くずっと行うことができる運動です。大人になると、無意識に身体のいろいろな部分に力が入ってしまって、その力は抜こうとしても、なかなか抜けません。今日は、ぜひこの運動を覚えてもらって、将来、近しい人と身体を『ほぐし合う』ことができるようになるといいなあと思います」
2人一組になって、お互いの手や肩、腰を揺すります。
田村さんが子どもたちの間に入って、力を抜くコツなどをアドバイスします。


「床に自分の身体がしみ込んでいく感じです。手足やお腹が重たい、暖かいとイメージすると力が上手く抜けていきます」
「相手から揺すってもらって、上手く揺れない部分は、こっているんですね。そこを、丁寧に揺すってあげると、無駄な力が抜けて、こりが解れて身体が楽になります」
子どもたちは、お互いの身体の揺れを感じながら、力を抜く心地よさを体感していました。
後半は、舞踏の代表的な二つの型を交えながら実際に演じてみます。
最初は『獣』の型です。
田村さんの説明を聞きながら、アシスタントの皆さんをまねて、子どもたちが取り組みます。右足は、半歩後ろに下げ踵をあげます。骨盤を立てて、ぐっと腰を下げると、額に角、お尻にしっぽ、手には尖った長い爪が生えてきます。体育館に28頭の『獣』が現れました。


もう一つの型を習います。
肩より少し高い位置で左右の腕を伸ばし、大幹の力は抜きます。重心はやや片足に寄せ、頭はうな垂れ静かに立つ姿は、何かに捕らえられているかのようにも見えます。
田村さんがお話します。
「8つ数えるのでその間に、人間から獣に変身してください。遺伝子が組み替えられて身体が変化するのでもいいし、月明かりに照らされて狼男みたいに毛むくじゃらに姿が変わるのでもいい。上手にやろうとしないで、自分が思うように自由にやってください」
二組に分かれ、曲に合わせて踊ります。


2023年間、身体の自由を奪われていた者たちが、月明かりに照らされ、ゆっくり歩み始めます。一歩二歩と進むうちに姿は獣へと変わり、2千年の時を取り戻すかのように、生き生きと激しく身をくねらせます。再び獣から元の姿に戻ると、氷が溶けるかのように足元から静かに崩れ落ちていきました。
それぞれの組の迫力のある真剣な演技に、大きな拍手が起こりました。
最後に田村さんがお話します。
「一つのことを追求している人間の言うことや行うことは、ジャンルを問わず様々なことに通じています。私は、テレビなどで一流のスポーツ選手の言葉を聞くと『踊りに通ずるものがある』といつも感じます。みんなも『これは私には関係ない』とは思わずに、様々な分野にアンテナを張って、多くの人からいろんなことを吸収してください」
「今日は、みんなが真剣に舞踏に取り組んでくれて感動しました。自分は、『この踊りのために死んでもいい』と思いながら、長年ずっと舞踏を続けています。いつの日か、踊りに命をかけて取り組んでいる大駱駝艦の自分たちと出会ったこと、一緒に踊ったことを、みんなが思い出してくれたらとても嬉しいです」
ワークショップ終了後、生徒から質問がありました。
「お給料はどのくらいもらっているのですか?」という質問に対して、
田村さんは次のように答えました。
「自分たちは給料ではなくて、行った仕事の分だけお金をもらいます。世界的に見ると日本では芸術家の暮らしは厳しくて、例えばフランスなどは、日本と違って、国が芸術家の収入をしっかりと保証してくれています。ときどき『好きじゃなければ、(舞踏を)やってられないよね?』と声をかけられますが、好きなだけではやっていられないです。苦しみながら、それでもやらないと生きている意味がない、というくらいの舞踏への想いは『好き』というより『愛憎』です。愛しすぎて憎んでしまうくらいです」
「会社は、どこにあるんですか?何人くらい勤めているんですか?」という質問にたいしては、
「大駱駝艦は、東京都武蔵野市吉祥寺にスタジオがあります。自分たちの師匠、事務の人たちの他、ダンサーは18~20人ぐらいいます。山形市出身のダンサーもいるんですよ」
と答えてくれました。
舞踏の魅力にふれるとともに、自分や周囲の人の身体を慈しむことの大切さを知るきっかけとなった、とても有意義なワークショップでした。