活動レポート
地域ワンコインコンサートvol.4~梅津碧
南遊佐コミュニティセンター 集会室
2022年11月19日(土)
11月13日から酒田市に滞在し、市内の小学校6校7クラスでクラスコンサートを行った声楽家の梅津碧さんが、南遊佐コミュニティセンター集会室にてミニコンサートを開催しました。今年度よりスタートした企画、「地域ワンコインコンサート」の第4回目となります。こちらは、アーティストが一定期間本市に滞在し、地域との交流を図りながら広く芸術の魅力を届ける「芸術家・地域ふれあい事業」の一環として実施しました。
今回の会場の南遊佐コミュニティセンターは、普段から地域の皆さんの文化活動の発表・練習の場となっている他、各種教室や勉強会、サークル活動など幅広く利用されている多目的施設です。
地域の慣れ親しんだ施設でミニコンサートを行うことで、普段、様々な理由により希望ホールに足を運ぶことが難しい方々にも、気軽に一流の芸術にふれていただくこと、アーティストに間近でふれていただき、その魅力を知っていただくことを目的として、開催しました。開場前からお客様が列をなし、小学校の子どもたちがご家族と一緒に来場する姿や、高齢のお客様も多く見受けられました。

定刻となり、大きな拍手に迎えられながらステージに現れた、梅津碧さんとピアニストの齋藤友佳さん。一曲目はA.アダン作曲の『きらきら星(あのね、お母さん)』。梅津さんの美しい歌声で、会場はあっという間にオペラの世界に包まれます。
梅津さんが歌を終えると、会場には温かな拍手が広がりました。
梅津さんはまず、「オペラとは何か」と「オペラ歌手の歌い方」について説明していきます。
「オペラとは演劇の一つで、オペラ歌手が台詞を歌って音楽で物語を紡いでいくものです。また、オペラが生まれた時代には、スピーカーなどはありませんでした。そのため、広い会場でも大きく響かせることができ、かつ喉にあまり負担がかからない発声法が編み出されました」
さらに、声の種類について説明していきます。ソプラノ・アルト・テノール・バスが、一般的には知られていますが、より専門的にいうと、例えば、ソプラノの中も細かく声の種類が分かれているそうです。ソプラノの中でも特に高い声で歌うのが、コロラトゥーラ・ソプラノと呼ばれており、この音域は高い声をコロコロと転がすように歌うところが特徴だそうです。最初に披露した「きらきら星」も、コロラトゥーラ・ソプラノのためにアレンジされていました。
次に梅津さんが披露するのは、コロラトゥーラ・ソプラノの曲の中でも最も有名だと言われている、W.A.モーツァルト作曲「歌劇『魔笛』より 夜の女王のアリア」です。歌われている場面について、梅津さんは説明していきます。
夜の女王が自分の娘に刃物を渡し、「これで自分の敵の男を殺しなさい」と命令します。しかし、その娘は敵の男が悪い人だとは思えず、女王に反抗します。反抗する娘に女王は激怒し、娘を突き放します。
笑い声のような高い音域での装飾的・技巧的なメロディーが印象的ですが、これは笑っているのではなく、すごく怒っているのだそうです。観客の中には梅津さんの説明に頷いている方も見られ、関心の高さがうかがえました。

歌が始まると、梅津さんはコロラトゥーラによる超絶技巧の歌唱だけではなく、表情や体全体の動きでも観客に魅せます。怒りに満ちた表情や力強い動き。まるで、夜の女王が舞台上に現れたかのようです。
歌を終えると、梅津さんは退場し、齋藤さんが次の曲の説明に入ります。
「次に披露するのは、「歌劇『ホフマン物語』より オランピアのアリア」です。ホフマンという男性が過去の自身の恋愛について語るというお話です。彼が最初に恋をする女性として出てくるのがこのオランピアですが、彼女は実は人間ではなかったのです…」
齋藤さんの意味深な説明のあと、舞台の裏の方からは何やらゼンマイを巻いているような音が聞こえてきます。続けて裏の方から、人形(オランピア)となった梅津さんが登場します。
舞台上に到着すると、人形となった梅津さんは軽やかに歌い始めました。途中まで伸びやかな歌声を披露していましたが、やがて動力源のゼンマイが切れたかのように、力尽きてしまいます。そこに希望ホールスタッフが、ゼンマイのようなものを持って急いで駆け寄ります。そのゼンマイのようなもの=ラチェットを廻すと、梅津さんは再び動き始めました。
ユーモアあふれる演出に、観客からは笑い声が聞かれました。


次は、オペラから派生したオペレッタという種類の歌劇から、J.シュトラウスⅡ世作曲の「喜歌劇『こうもり』」という曲です。この曲は、1月のリサイタルでも梅津さんが披露する予定です。歌われている場面について、梅津さんが話し始めます。
大きな屋敷で働いている女優志望の女中、アデーレ。彼女は女主人の許可なしにガウンの1つを借り、とあるパーティーに参加して、そこで女主人の夫の侯爵に見つけられてしまいます。アデーレは、自分のような魅惑的な女性が女中であるはずがない、と侯爵を笑って言いくるめます。
アデーレはパーティーにおいて女優になりきっているため、ふるまいは女中とは思えない完ぺきな貴婦人です。チャーミングな笑顔やしぐさで、さらに観客の心を鷲掴みにします。

残り最後の1曲となったところで、梅津さんは、小学校クラスコンサートでもお話した、自身がソプラノ歌手になった経緯について、語り始めました。
梅津さんは小学校、中学校、高校と、地元の公立の学校に通い、大学も音楽とは関係のない大学に進みました。それまでは音楽をやったこともなかったそうです。大学2年生の時に偶然見に行った、地元のホールのオペラの公演に出演していた主役の歌声に、梅津さんは衝撃を受けます。マイクも使わず、周りの演奏にも合唱にも負けずに舞台で歌う主役の歌声に圧倒され、梅津さんはそれから音楽の勉強を志すことになります。
「その歌手の方のおかげで歌の勉強を始めることができ、今こうして、皆さんの前に立っています。どんなことがきっかけになったり、どんな出会いが人の人生を変えるのかはわかりません。一つ一つの出会いが奇跡だと思っています。そんな想いにすごく重なる、中島みゆきさんの『糸』という曲を最後に披露したいと思います」
梅津さんの想いの込められた歌声が、会場全体に優しく浸透していきます。
梅津さんが歌を終え一旦退場されたあとも、拍手は鳴りやみません。梅津さんは再度登場され、会場に向けて優しく語りかけます。
「酒田に来るのは人生で2回目ですが、出会う人たちが皆さんいい人で、おいしいご飯もあって、見どころがたくさんありました。こんな素敵な地域で歌わせてもらえるのはすごく幸せですし、自分の歌を聴いて『歌ってみたいな』と誰かが思ってくれたらいいなと思います」
観客の拍手に応えて披露されるアンコールは、武満徹作曲の「小さな空」という曲です。情感あふれる穏やかな歌声が、会場を包み込みます。
アンコールを終えたあとも拍手は鳴りやまず、梅津さんは続けて2曲目のアンコール曲を披露します。2曲目はC.グノー作曲「歌劇『ロミオとジュリエット』より ジュリエットのアリア」です。この曲では、成人を祝うパーティーにおいて、ジュリエットが乳母から「あなたもそろそろ結婚の時期ね」と言われ、「私はまだそんなことを考えずに、もっと青春を謳歌したいの」と、甘酸っぱく切ない乙女の想いを歌った曲だそうです。梅津さんの華やかな歌声でコンサートを締めくくりました。

今回のミニコンサートには、梅津さんの出身地である長井市や、県外からもご来場いただきました。
お客様からは、
「ワンコインで素晴らしいコンサートはめったに聴くことはできないので、いい機会でした」「初めてオペラを聴いて、感動しました」「曲の説明もわかりやすく、何より素敵な歌声でした」「ユーモアも交えて楽しい時間でした。オペラが身近に感じられました」「自分が住んでいるような地域では聴くことができないオペラを聴くことができました。素晴らしい企画だと思いました」
など、多くの喜びの声が寄せられました。
梅津さんの瑞々しい歌声とオペラの魅力にもふれることができるミニコンサートとなりました。