活動レポート
大駱駝艦 田村一行 舞踏ワークショップ・オーディションワークショップ
世界的舞踏カンパニー大駱駝艦の舞踏家・田村一行さんは、12月18日(日)に希望ホール大ホールで、舞踏公演を予定しています。今回はその関連企画として10月28日に舞踏体験ワークショップ、また翌日29日には12月の公演に出演する市民のオーディションワークショップを実施しました。二日間のワークショップは、田村一行さんから講師を務めていただき、アシスタントとして同じく大駱駝艦の小田直哉さん、阿蘇尊さんから参加していただきました。
【10月28日/舞踏ワークショップ】
28日の舞踏体験ワークショップには、10代から70代と幅広い年齢層の方が参加。この企画に魅かれて初めて舞踏にふれるという人が多い一方、何年も前からの大駱駝艦ファン、舞踏ファンという人もいらっしゃいました。
最初に、田村さんがステージ上に広がった参加者の顔を見ながら、丁寧に両足のストレッチのやり方を教えてくれました。田村さんのやさしい声掛けに合わせてストレッチしていくと、身体と一緒に緊張した心もほぐれ、会場全体が和やかな雰囲気になりました。

「『自分は体が硬い』という人が多いですが、本当にそんなに硬いのか。皆さんで試してみましょう」
田村さんの合図で、各々立った状態で前屈。床に指がなんとかつく人もいれば、床と指の間隔が20センチ以上も開く人もいます。
「次に、30秒、『寄り目』をしてみましょう。指を使ったほうがやりやすいと思います」
30秒間各々『寄り目』した後、もう一度前屈すると、皆さん前よりぐっと曲がります。
「すごい!床に着いた~!」とあちらこちらから歓声が上がります。
田村さんが話します。「体のいろいろな部分が繋がっていて、様々な刺激を与えることで、自分が思っている以上に体は曲がるようになります」
次に、舞踏の基本となる体の動きについて。

「体は『皮でできた水袋』です。みなさんは皮の袋で、その中に内蔵やらなにやらがぷかぷかと浮いています。体の力を抜いて、自分の中の水を揺らしてきましょう」
それぞれ四つん這いになり、自分を『水袋』とイメージし、身体を左右に揺らしてみますが、体に力が入り硬い動きの人も。続いて上向きに寝て、身体を左右に揺らします。小田さんと阿蘇さんが、参加者一人一人を回って、声掛けしながら足首や腰を持って揺らしてくれました。だんだんと身体の中に『タプタプ』と水を感じるようになってきます。田村さんが説明します。


「無駄な力を抜くことが、舞踏ではとても大切です。頭の中を空っぽにしましょう」
次は、これも舞踏の基本の動きとなる「すり足」。
「立って、両手の手のひらを上にしてそこに液体の入ったコップをイメージしてください。その液体をこぼさないで前に進んでください。かかととつま先は上げずに、常に床とふれています」
参加者は、初めての動作に戸惑いながら、イメージした液体をこぼさないよう、慎重に進みます。

続いて田村さんが説明します。
「自分の大事なものをイメージしてそれを抱えてください。そして抱えながらすり足で前に進んでください」

ライトに照らされながら、それぞれ参加者は『大事なもの』を抱きしめ、すり足で進みます。ステージ際まで来ると、田村さんが声を掛けます
「はい。その大事なものが無くなりました」
小さく小さく縮んでいく姿からは喪失感・孤独感、悲しみが伝わってきました。
ワークの最後、田村さんが皆さんに話します。
「『どんなふうに悲しいのか』『どんなふうに楽しいのか』、この『どんなふうに』が、表現する際にとても大切になってきます。『どんなふうに』について自分の言葉で表す、つまり自分と正面から向き合うことで、本当の表現が始まります。テクニックに走るのではなく、自らのリアリティを追求することで、オリジナリティに到達することができます。今日、2時間皆さんと一緒に過ごし、最後、同じ言葉を伝えて、身体で表してもらいましたが、全員全く違う動きをしていましたね。それぞれとても興味深い踊りでした」
田村さんの丁寧なお話に、全員熱心に聞き入っていました。
終了後、参加者からは
「自分の身体の状態を感じることができました。外部の要因によって自分があり、動かされる感覚が楽しかった」
「初めて舞踏を体験して、脱力や関節の動かし方などとてもいい刺激になりました。身体の捉え方(水)が興味深かった」
「今まで体験したことのないことばかりで、とても有意義な時間だった。舞踏というジャンルを知ることができて良かった」という声が聞かれました。
【10月29日/オーディションワークショップ】
翌29日は、12月公演の市民出演者のための、オーディションワークショップを開催。舞踏やバレエの経験者、シンガーソングライター、アマチュア劇団員、長年の大駱駝艦ファンなど、多様な参加者9名が集まり、中には車で2時間弱かかる遠方から足を運んでくれた人もいました。開始前から大駱駝艦さんとの公演とクリエーションを楽しみにする声が聞こえ、会場は熱気にあふれました
最初に田村さんが挨拶をします。
「何か上手にやろうとする必要は無いですからね。上手にやろうとした途端、表現が面白くなくなります」

田村さんに促され参加者一人一人が、自己紹介と今回参加した理由を話します。
「表現したいという欲求が止まらなくて」「新しい刺激が欲しくて」「自分の表現方法を広げるきっかけになれば」「小さいころから大駱駝艦さんの舞踏が大好き。一緒に公演できるなんて夢のようです」と理由はそれぞれですが、終始、皆さんの目の輝きが、今回のワークショップへの期待感を表していました。
さっそく舞踏の動作に入ります。
参加者が四つん這いになると、田村さんの声に合わせて身体を動かします。

「背中にあるピンポン玉をイメージして身体を動かされてみましょう。ピンポン玉が背中や腰、首にも動き回ります」
「右のお尻から入ったエネルギーが、左肩に抜けて行きます。エネルギーの動きを感じて」
力を抜いて柔らかく身体をくねらせます。イメージに苦戦する人には、小田さんや阿蘇さんが手を添えながら丁寧に手伝います。

骨盤を返しながら、背中を波打たせる『駱駝の体操』。
「今、できなくても大丈夫。12月の一週間のクリエーションでマスターしましょう」
田村さんが、笑顔で参加者に話しかけます。

次は基本姿勢の立ち姿です。
「地球に、『ポン』と置かれているイメージです」
軽くジャンプして、足は肩幅に開き自然に立ちます。頭のてっぺんが糸で吊られていて、その糸が緩むと、どんどん地球の中心に向かって身体が沈んでいきます。吊られたり緩んだり、左右に揺すられたり、参加者は操り人形のように見えない糸に動かされていきました。


後半は、具体的に身体で表現するワークです。
「人間は、環境、感情、病気、時間、職業など様々な外側からの要因により作られています。いろいろな要因を表現してみましょう」
大駱駝艦の小田さんと阿蘇さんが、顔の表情と身体の動きで喜びや悲しみを表現します。次は参加者の番です。
「全人類の悲しみを抱えたまま、前進します。横の人とスピードを揃えましょう」
「悲しさを超越し、怒りを表して。怒りで体が震えます」
「怒りを通り越し、どうでもよくなります。頭の中は空っぽ、何者でも無くなります、人種も思い出も、自分の全てが無くなりました」
「年を取って、体は骨と皮だけで、肌はどす黒くガサガサ。髪の毛は雑巾の様。腹からは腸が飛び出ています」
田村さんの声掛けで、次々と姿を変える参加者。舞台上から、各々の表現への探求心と気迫がひしひしと伝わってきます。
本日、最終のワークに入ります。
「踊りとは、思考を停止して何も考えない 、力を入れず、空っぽになることだと思っています。いろいろな力を頂いて、踊らされていると感じています。何を踊るかではなく、『何に踊らされるか』です」
「実際に作品を創るときは、ある程度、決まった表現の『型』があります。いくつかやってみましょう」
田村さんのお話の後に、代表的な型がいくつか大駱駝艦の皆さんから示されました。本格的な迫力のある舞踏の動きに、参加者の目はくぎ付けです。
『獣の型』について田村さんは
「自分を獣だとイメージして、どんな風に毛が生えているのか、牙や角はどうなっているのか、どんな場面に立っているのかなどを想像しながら表現します」
と説明します。

続いて、参加者の番です。
「上手に演じようと考えないで。自分の身体と向き合って、イメージを正直に表すことが大切です」
田村さんの声掛けに続いて、音楽が流れます。
獣に変身するところから始まり、「獣になることを受け入れる自分」、「獣になることにあらがう自分」「獣と人間の狭間にいる自分」を、田村さんからアドバイスをいただきながら表現します。ステージ上で繰り広げられる参加者の独創的な動きは、まるで舞台作品の一幕のようでした。


熱気が冷めやらぬ中、最後は全員が一か所に集まり、田村さんから12月のクリエーションに向けての想いが語られ、ワークは終了しました。
終了後のアンケートには、参加者から、
「イメージの大切さをより感じられました。公演に向けて気持ちが高まりました。いろいろな人と作品創りに携わることができて楽しみです」
「肉体表現の素晴らしさを感じた」
「芸術というものがもっと自由な発想でいいんだと、固定観念が解けていくような感覚でした。物事の捉え方、価値観など深く影響を受けた気がします」
という感想が寄せられました。
大駱駝艦の皆さんと参加者の間に絆が生まれ、公演に向けて、大きく期待の膨らむワークショップとなりました。
12月に上演する「舞踏酒田風土記 幽玄の論理」は、庄内の伝承文化を題材にした、田村さんの新作公演です。大駱駝艦の舞踏手たちが、酒田の伝承にふれ、地域に暮らす人々と昇華した唯一無二の舞台芸術をぜひご覧ください。
「舞踏酒田風土記 幽玄の論理」の詳細はこちら↓
https://kibou-hall.sakata.yamagata.jp/event/ikkotamurabutohsatage/