活動レポート
田中靖人さん・新居由佳梨さんクラスコンサート
十坂小学校
2022年11月8日(火)
日本を代表するサクソフォニストの田中靖人さん、国内外で高い評価を得ている実力派ピアニストの新居由佳梨さんのお二人が、「芸術家・地域ふれあい事業」の一環として酒田市内の小学校で クラスコンサートを実施しました。
お二人は11月6日(日)から1週間本市に滞在し、鳥海小学校、十坂小学校、浜中小学校、八幡小学校、浜田小学校、亀ケ崎小学校の6校を訪問しました。今回は、その中から十坂学校でのクラスコンサートの様子をレポートします。
大きな拍手に迎えられ、笑顔で登場したお二人。初めに演奏したのは、J.S.バッハ作曲『ソナタ変ホ長調より第一楽章』です。 演奏が始まった途端、普段あまり聴く機会のないソプラノサックスの柔らかな響きと、明るく軽やかなピアノの音色に子どもたちは惹き込まれているようでした。

演奏後、「サックスを見たことがある人?」と田中さんが問いかけると、数人の子どもたちの手が挙がります。
田中さんは「サックスが発明された当時は、野外で演奏する軍楽隊の中にフルートやクラリネットなどの木管楽器と、トランペットやトロンボーンなどの金管楽器がありました。それぞれ全く違う音色なので、それらをブレンドする役割としてサックスが発明されました」と説明します。
全体は金属でできているサックスですが、葦という植物を薄く削ってできたリードという薄い板のようなものをマウスピースに付け、息を吹き込んで振動させて音を出す構造と、キーの仕組みがクラリネットと似ていることから、木管楽器の一つであるサックス。
サックスは全部で7種類もあり、田中さんの背丈ほどの高さがあるコントラバスサックスもあると田中さんが話すと、子どもたちは驚いた様子でした。

さて、次の曲はG.ビゼー作曲の『組曲「アルルの女」より間奏曲』です。今回演奏されるのはオーケストラで演奏される曲をピアノとサックス用にアレンジされたものです。
重厚な雰囲気のピアノで始まり、その後は優雅な旋律をサックスが朗々と奏でます。音楽室に抒情的な旋律が響きました。
田中さんが「サックスもリコーダーと指使いはほとんど同じで、音を出すのも他の楽器に比べると簡単なので、皆さんもぜひいつか機会があれば吹いてみてくださいね」と話すと「私も吹いてみたい!」と声が聞かれました。

ここでサックスの歴史についてのお話です。サックスは、今から180年ほど前にベルギーの楽器製造家 アドルフ・サックスによって作られ、フランスのパリで楽器として認められると、ベルギーとフランスを中心に広まります。その後、アメリカで誕生したジャズの世界においても脚光を浴び、サックスが登場する曲も多く書かれるようになるのでした。
続いては、『ソナタより第一楽章』。アメリカの作曲家P.クレストンによって1930年頃に書かれたサックスの代表的な曲です。
「よく聴いてみると、サックスとピアノが会話をしているようにも聞こえるので、ぜひその点に注目して聴いてみてください」という田中さんの言葉どおり、サックスとピアノが代る代る同じ旋律を奏で掛け合いをしていく様子に、子どもたちはお二人を交互に見つめながら聴き入っていました。

さて、続いては新居さんのお話です。
「今日のように二人以上で演奏することをアンサンブルと言います。演奏の際に田中さんは、息を吸う音や楽器・体の動きで合図をしてくれていて、私はそれを察知して演奏しているんです。
これは生で間近で聴いているからこそ分かるポイントなので、この後もぜひ観察して聴いてほしいです」と話します。
ここからはピアノのお話です。ピアノは300年ほど前にクリストフォリという人によって原型となる楽器が作られました。
しかし、“ピアノ”という名前は正式名称ではないそうで、新居さんが「実はピアノの正式な名称は、“クラヴィチェンバロ・コル・ピアノ・エ・フォルテ”なんです」と一息で話すと、「長すぎ!」「知らなかった!」と驚く声が上がりました。
新居さんは時折子どもたちにクイズを出しながら、ピアノは88個の鍵盤によってたくさんの音の高さを出すことができることや、10本の指を使うことで同時に複数の音を出したり、右手が旋律を奏で左手が伴奏をするなど一人二役したりできること、そして小さな音から大きな音まで音量の幅を出せることの3つのポイントを教えてくれました。「次の曲はピアノの3つのポイントが分かる曲なので、ぜひそのポイントを探しながら聴いてみてくださいね」と新居さん。

次の曲は、ピアノのソロでE.グリーグ作曲『山の魔王の宮殿にて』です。
山に住む大魔王の娘が主人公であるペール・ギュントに恋をしますが、ペール・ギュントは娘に対しつれない態度をとります。それを知った大魔王は怒って自分の手下である妖怪たちに彼を懲らしめるよう命令するのでした。
この曲は、妖怪たちがペール・ギュントを取り囲むようにどんどん近づいていく様子を表しています。
初めはゆっくりと小さく始まり段々と大きく速くなっていく、まさに妖怪たちが迫ってくるようなどこか不気味な雰囲気の音楽に、中には体を動かしながら聴いている子どももいました。
続いては、ピアノの音が生まれる仕組みについて、新居さんがピアノ内部の模型を使いながら説明します。初めて見る構造に子どもたちは興味津々で見つめていました。

ペダルの役割についても、実際に短いフレーズを弾きながら説明があり、新居さんは「音を伸ばしたり混ぜたりするだけでなく、ピアニストは音が濁らないように耳を澄まして踏み変えているんです」と話しました。
続いてもピアノのソロで、T.バダジェフスカ作曲『乙女の祈り』です。短いながらも繊細でとても美しくロマンチックなメロディが響きました。
子どもたちは新居さんのペダルを踏む足の動きにも注目して聴いているようでした。
最後の曲は、R.モリネッリ作曲『「ニューヨークの4つの絵」よりブロードウェイの夜』です。モリネッリはイタリアの作曲家で、ニューヨークに旅をした際に見たり聞いたりしたものを音楽にしました。
曲名のとおり、都会的で躍動感のある音楽に子どもたちは身を乗り出して聴き入っていました。

お二人が呼吸や動きを使ってタイミングを合わせながら奏でる迫力満点の演奏に、音楽室は次第に熱気に包まれていき、終わった後には大きな拍手が沸き起こりました。

子どもたちは、クラスコンサートが終了した後も興奮冷めやらぬ様子で、サックスやピアノの演奏をするジェスチャーをしたり、ピアノの内部をのぞき込んだりしていました。
子どもたちがサックスとピアノの織り成す音楽を近距離で感じたことはもちろん、楽器の特性や歴史についても学ぶことで、2つの楽器の魅力に夢中になったクラスコンサートとなりました。
また、アーティスト自身の話を間近で聞いたことは、演奏家や音楽を身近に感じるきっかけとなったのではないでしょうか。