酒田市民会館 希望ホール KIBOU HALL

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活動レポート

塚越慎子 アナリーゼワークショップ

希望ホール大ホール

9月22日(金)

希望ホールで行われるリサイタルのプログラムについて、アーティスト自ら、プログラムや楽器の魅力、聴きどころについてお話しする人気企画の「アナリーゼワークショップ」。

今回は12月2日(土)開催の「塚越慎子 マリンバ・リサイタル」のプログラムについて、マリンバ奏者の塚越慎子さんとピアニストの武本和大さんにお話いただきました。

塚越さんが拍手の中登場します。演奏するのはベンジャミン・ウィッティバーの「リズムダンス」。4本のマレット(バチ)を用いたリズミカルで迫力のある演奏に、会場の熱気が一気に高まりました。

 

盛大な拍手の後、「今日はマリンバを少しでも好きになっていただければ」と塚越さんによる楽器のつくりや成り立ちについてのお話が始まります。

マリンバの音板(ピアノでいう鍵盤にあたる部分)は天然の木で作られており、木を削ることで音の高低がつけられます。「木の真ん中を削ると音が低くなり、木の端を削ると音が高くなります。そのため横からマリンバを見ると音板がアーチ状になっているんですよ」と塚越さん。

 

次に触れるのは、マリンバとよく似た楽器であるシロフォン(一般的な木琴)との違いについて。

「見た目の大きさの違いはもちろんですが、実は歴史が違うんです」

シロフォンはヨーロッパで発展した楽器である一方、マリンバはグアテマラの民族楽器で、グアテマラからアメリカに渡り日本へ伝わった楽器なんだとか。現地では誰かと楽しく弾く民族楽器というイメージが強いと塚越さんは説明しました。

 また、シロフォンとマリンバの違いは音色にも表れます。マリンバは弦楽器や管楽器と同じ「偶数倍音」、シロフォンは「奇数倍音」と調律方法が違うため、マリンバの音は他の楽器に溶け込むような音なのに対し、シロフォンの音は他の楽器の中でもくっきり目立つのだそうです。

続いて、マリンバの奏法について実演を交えての解説です。

マリンバは共鳴管(音板の下にある金属製のパイプ)の位置をたたくと一番いい音を出すことができ、塚越さんも演奏する際にはそのポイントを目指して演奏しているとお話します。

塚越さんが実際に共鳴管の上の位置と吊り紐の上の位置をたたいて比べてみると、前者は柔らかい響きが広がるのに対し、後者の場合は響きを抑えた硬い音になりました。

そしてマリンバならではの奏法として紹介されたのがトレモロ奏法。音板を連続して叩き、まるで音が持続しているかのように聴かせる奏法です。

ここで塚越さんの呼びかけによりピアノの武本さんが登場し、演奏するのはリサイタルでも披露されるピアソラ「オブリビオン」の冒頭部分です。

まずは、叩く速度が一定の場合とそうでない場合の2パターンをマリンバのみで演奏します。叩く速度に緩急をつけて演奏することで曲に表情が生まれ、メロディが際立って聞こえます。

さらに武本さんと共に演奏すると、しっとりした伴奏に情感あふれるマリンバのメロディラインが美しく重なります。観客のみなさんも、このどこか物悲しくも美しい曲にすっかり聞き入っていました。

「マリンバは民族楽器というイメージも強いですが、クラシック音楽の素晴らしい楽器の一つとして認知されるよう、日々音の研究をしています」と塚越さんは語ります。

リサイタルなどのプログラムの構成などにあたって、重視する一つが曲の「調性」です。塚越さんに代わり、ここからは武本さんが解説します。

JAZZピアニストとして活躍する武本さんは作曲も行いますが、自身も作曲をされる際、曲の仕上げをする上で調性をとても大事にしているのだそう。

調性が変わると曲がどう変わるのか、最初に弾くのはハ長調のフレーズ。明るく澄んだ印象です。ハ長調はドラマのオープニング曲などで使用されることも多く。同じフレーズをヘ長調にすると、温かく故郷や家族を思い出すようなイメージに変化します。「♭(フラット)が増えると、どんどん愛が深まるようなイメージになります。ジャズのスタンダードナンバーには♭がついている曲が多いです。逆にト長調など#(シャープ)がつくと明るく神聖な響きになり、宗教的な曲に使われることも多いですよ。」という武本さんの説明を、会場の皆さんは興味深そうに聞いていました。

 

リサイタルで披露する「デルタリブラ」の作曲者は、世界中で活躍するジャズ作曲家の挾間美帆さん。塚越さんと挾間さんは以前から親交があり、デルタリブラはなんと塚越さんのために作られた曲なのだそう。その中でも特にジャズらしさが存分に発揮されている部分をピックアップして解説してくださいました。4/4拍子の中で16分音符が一つずれたり、アクセントの位置が小節線の前から始まることで、曲の高揚感や裏打ちのフィーリングが生まれると塚越さんは話します。一部分のみお二人に演奏していただくと、ピリッとした緊張感の中、音とリズムが複雑に絡み合い、マリンバとピアノが競い合うように奏でられます。

演奏の後、このフィーリングを出すのに何カ月も練習したと話す塚越さん。また「挾間さんの曲は演奏不可のギリギリを攻めるような難しい曲が多いです。そのくらい楽器の可能性、音楽の可能性を追求している方なんです。」と挾間さんの曲が持つ魅力を語ってくださいました。

終了後寄せられた感想では、「マリンバの魅力や可能性をビシビシ感じることができました」という声や「お二人のお話が上手で楽しくて、あっという間に時間が過ぎました」という声が届きました。

12月2日のリサイタルが待ち遠しくなるような、マリンバの魅力や楽曲の奥深さが満載に詰まったアナリーゼワークショップとなりました。

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