酒田市民会館 希望ホール KIBOU HALL

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活動レポート

仲道郁代 アナリーゼワークショップ

希望ホール 大ホール

一流の芸術をより身近に感じてもらい、アーティストと地域が交流することを目的とした、「アーティスト・イン・レジデンス事業」の一環として、2月19日(土)に希望ホールでリサイタルを開催するピアニスト仲道郁代さんによるアナリーゼワークショップを実施しました。

大きな拍手に迎えられてステージに登場した仲道さん。

「ベートーヴェンは、楽譜そのものに謎解きのような面白さがあります。今日は4曲のソナタの謎をどう解いていくか、という入口のお話をします」という言葉でアナリーゼワークショップが始まりました。

仲道さんが2月のリサイタルで演奏するのは、「ピアノ・ソナタ第8番 悲愴」、「第14番 月光」、「第17番 テンペスト」、「第23番 熱情」ですが、その中でベートーヴェン自らがタイトルをつけたと言われているのは「悲愴」だけなのだそう。

仲道さんは、「タイトルをベートーヴェンがつけたのではないとしても、ベートーヴェンの作品は、使われているモチーフから、ベートーヴェンの考えや思いが分かるようになっているんです」とお話します。

1曲目は「悲愴」。全楽章を通じ、第1楽章の初めに登場する短い3つのモチーフ(部品)だけで曲が構成されています。

1つ目のモチーフは衝撃を感じさせ、2つ目はまるで手を伸ばしているような印象を与え、3つ目はため息のようにも聴こえるモチーフです。

それぞれのモチーフが、曲が進んでいくにつれ、下降している音型が今度は上昇して使われるなど、その変化の付け方によって、ベートーヴェンが何を表現したかったのか推理することができると仲道さんは話します。

第1楽章と繋がりがないように聴こえる第2楽章でも、実は第1楽章で使われたモチーフを明るく重ねることでメロディが形作られています。

第3楽章の最後は第1楽章のモチーフが、第2楽章の調性で一瞬明るくなることで、光が差し、最後は先に進む意志を表すよう曲が終わります。

「悲愴」というタイトルでありながら、第1楽章で使われたモチーフが、第2、3楽章と進んでいく中で変化していき、どこか希望や光を感じられるというお話に、会場のお客様は熱心に頷きながら聞いていました。

2曲目は「月光」です。この曲で使われるモチーフは、運命の歯車や、葬送の歩みを表すリズム、ゴルゴダの丘に十字架を背負って登っていくキリストなど、それぞれが意味を持って登場します。

仲道さんは、「演奏家としては、自分がこう思うからこう弾くというのでは、ベートーヴェンの作品に迫るには主観的すぎる。ベートーヴェンが組み立てたモチーフの数々を紐解いて、なぜ聴く人にこの印象を与えるのか、その理由を曲の中に見付けていくということがアナリーゼなんです」とお話されました。

3曲目の「テンペスト」は、ベートーヴェンに、弟子が「この曲は何を表しているのか?」と聞いたところ「シェイクスピアの『テンペスト』を読みなさい」と言ったことから名付けられたという説もあるそうです。

この曲では、その物語の情景を表しているかのようなドラマティックな場面の数々を仲道さんのお話とともに辿りました。

最後の「熱情」でも、第1楽章で使われた3つのモチーフが第1~3楽章を通してどのように変化していくのかを読み解いていきます。第3楽章について仲道さんは、「1楽章のモチーフを凝縮した形が持続していき、水面下の情熱のようにも感じられる強い意思が、最後にようやく爆発する。モチーフを辿っていくと、熱情の“熱”の在り方が一体どのようなものなのかということが聴こえてくる」とお話されました。

仲道さんは、「ベートーヴェンは論理的にモチーフを組み立て、その全てに意味を持たせて作品を書きました。今日は、それぞれのモチーフの意味を推理しながら楽譜を見ていくと面白いですよ、ということをお話させていただきました」と話してワークショップを締めくくりました。

様々なモチーフを変化させることでベートーヴェンが何を伝えたかったのか、仲道さんご本人の演奏を交えながら読み解いていくことで、より深くプログラムを味わえるということを解説いただきました。

2月に開催する「仲道郁代ピアノ・リサイタル~オール・ベートーヴェン・ソナタ~」がより楽しみになるアナリーゼワークショップでした。

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