活動レポート
仲道郁代ピアノ・リサイタル
希望ホール大ホール
アーティスト・イン・レジデンス事業の一環として、ピアニスト 仲道郁代さんによる「仲道郁代ピアノ・リサイタル~オール・ベートーヴェン・ソナタ~」を開催しました。
仲道さんは、ベートーヴェン没後200年と、ご本人の演奏活動40周年となる2027年に向けて、2018年から10年間にわたって「The Road to 2027」というリサイタルシリーズを展開しています。
昨年12月21日には希望ホールで「仲道郁代 アナリーゼワークショップ」が実施され、リサイタルで演奏するプログラムやベートーヴェンについてお話しされ、多くのお客様が来場しました。
1曲目は『ピアノ・ソナタ第8番 ハ短調 作品13「悲愴」』です。
今回のプログラムの中で唯一、ベートーヴェン本人がタイトルをつけたと言われている曲です。仲道さんは演奏の前に、主題として使われているモチーフが曲中でどのように変化して使われているかを辿ることによって、ベートーヴェンがこの曲を通して何を伝えたかったかを探ることができるということを、それぞれのモチーフについて説明しながら解説をしました。

会場のお客様は、ベートーヴェンがこの曲を通じて表現したかったことに想いを馳せながら聴いているようでした。
2曲目は『ピアノ・ソナタ第14番 ハ短調 作品27-2「月光」』です。『悲愴』と同じくモチーフについて説明します。
この曲は、歯車を表すモチーフ、葬列を表すリズム、ゴルゴダの丘を十字架を背負い登るキリストを表すモチーフなどで成り立っており、特徴的なのは、ソナタの中で各楽章の間を開けずに演奏するよう記されていることです。
仲道さんは、「第1楽章から第3楽章に移り変わるところこそが、もしかしたらベートーヴェンが、曲の中で描きたかったことかもしれない。決して、キリストが磔になったという事実を描こうとしたのではなく、そこに象徴される形を表現し、それが変貌していくことに意味があると思う」と話しました。
ほんのり明るい第2楽章を経て第3楽章になると、歯車のモチーフが上の方に転がり出して、葬列のリズムやゴルゴダの丘のモチーフはどこか人間の意志を表すように変貌し、先へと静かに進んでいきます。揺るぎない意志が表れた抒情的な旋律が紡がれました。

3曲目は、『ピアノ・ソナタ第17番 ニ短調 作品31-2「テンペスト」』
ベートーヴェンは、この曲を理解するための鍵を教えて欲しいと弟子から問われた際、シェイクスピアの戯曲「テンペスト」を読んでみなさいと話したという逸話が残されています。
仲道さんは、「この曲がシェイクスピアのテンペストと関連しているとしても、その物語の様子を単に曲にしたのではなく、荒れ狂う気持ちや人を愛する気持ち、許しの心のなどの、何か概念のようなものをベートーヴェンは表現したのではないかと思う。自分の苦しみとか、様々乗り越えて生きていくというようなことを、例えば物語に重ねて聴くことはできます。色々な聴き方ができると思う」と話しました。
会場のお客様はそれぞれが曲の表す情景やイメージを想像しながら聴いているようでした。

4曲目は『ピアノ・ソナタ第23番 ヘ短調 作品57「熱情」』です。仲道さんは、「この曲からは、絶望して遺書を書いたその後、名作をたくさん生み出していくベートーヴェンの、生きる力や熱意、覚悟のようなものが聞こえてくる。それと同時に運命や宿命に対して、何か自分では抗えない大きな力がそこにあるという感覚を持っているのではないかと思う」と話します。
仲道さんが「秘めた熱情」「覚悟ある熱情」「持続する熱情」と表現したソナタ。
重厚な旋律が会場に響きました。

鳴りやまない拍手に、仲道さんは「ありがとうございました。まだまだコロナの不安と緊張があって、いつになったら晴れ晴れとした日々が戻ってくるのかという感じです。けれども、そういう日は必ず戻ってくると希望を持って、最後に、夢という意味をもつシューマンのトロイメライを演奏します」と笑顔でお話ししました。
アンコールでは希望に満ちた音色に会場が包まれました。

当日は前売券が完売となり、多くのお客様が県内外から訪れ、「大感激でした」「涙がとまりませんでした」「このような催しが増えてほしい」など喜びの声が聞かれました。