活動レポート
髙橋和貴アナリーゼ&ヴァイオリン・コンサート
希望ホール 大ホール
昨年10月に酒田市内の小学校に訪問し、クラスコンサートや酒田市総合文化センターでのアナリーゼワークショップを実施した山形交響楽団ソロ・コンサートマスターでヴァイオリニストの髙橋和貴さんとピアニストの三輪郁さんを迎え、希望ホールでアナリーゼ&ヴァイオリン・コンサートを開催しました。
今回はアナリーゼ&ヴァイオリン・コンサートということで、山形交響楽団 演奏事業部 鈴木真修さんによる、楽曲や作曲家についての説明を交えながらのコンサートです。


1曲目はブラームス作曲『スケルツォ』。ブラームスが20歳の頃にシューマンと弟子のディートリヒとともに、友人であるヴァイオリニスト ヨーゼフ・ヨアヒムのために合作したソナタの第3楽章の部分です。1楽章はディートリヒ、2·4楽章はシューマン、3楽章をブラームスが担当しました。
この曲は「ソナタ形式」という形式であることや、ベートーヴェンの『運命』の主題に影響を受けていることなどを、髙橋さん、三輪さんの演奏を交えて解説されました。
演奏が終わった後、髙橋さんは「この曲が書かれたのは、現代よりも自由であることが難しい時代。自由というものに対して強い思いや憧れを込めて作曲された。ブラームスはベートーヴェンから運命、自由を勝ち得るという印象を受けたのではないか」と話します。

2曲目はモーツァルト作曲『ヴァイオリン・ソナタ第34番変口長調』です。この曲では、
それぞれの楽章で使用される主題やテーマの一部を髙橋さんと三輪さんが演奏した後で、実際に全編を通して聴きます。滅多にない機会に、会場のお客様は演奏されたそれぞれの主題が曲中で形を変えながら演奏される様子を辿りながら聴いていました。
続く3曲目はベートーヴェン作曲『ヴァイオリン・ソナタ第5番へ長調作品24番』です。この曲では作曲家についてふれていきます。
ベートーヴェンは、20代後半から耳が聞こえなくなり40歳前後には全く聞こえなくなっていました。この第5番は『春』という愛称がつく幸福な雰囲気の曲であるのに対し、その前の第4番は暗い雰囲気の曲です。同じ時期に作曲されたとは思えない2つの作品の性格は、ベートーヴェンの当時の暗い気持ちとそこから逃れたい気持ちの表れでもあったのではないかと鈴木さんは話します。
この曲を選曲した理由について髙橋さんは、「暦の上ではもう春。コロナ禍で大変な時代ではあるが、季節とともに希望を感じてもらえたら」、三輪さんは、「モーツァルトのヴァイオリン・ソナタと比較すると、ベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタはどちらかと言えばヴァイオリンがメインの主題を奏でる。部分的にオーケストラが聞こえてくるような箇所もあるので、その響きを聴いてもらえたら嬉しい」と話しました。


お二人の言葉どおり、春の希望に満ち溢れたシンフォニックな響きに会場中が包まれました。
最後はチャイコフスキー作曲『レンスキーのアリア』です。この曲は、もともとチャイコフスキーのオペラ「エフゲニー・オネーギン」の中でレンスキーという登場人物が歌うソロの曲をヴァイオリンの曲として編曲したものです。髙橋さんからは、ロシアの大ヴァイオリニストである編曲者のレオポルト・アウアーとチャイコフスキーの関係についてのエピソードの紹介があり、当時のヴァイオリニストの活躍があったからこそ素晴らしい曲の数々が作曲されたということについて解説がありました。
この曲では、レンスキーが想い人であるオリガヘの愛情を歌う、もの悲しくも美しい旋律が響きました。

今回の公演では、ウィーンを中心に活躍するお二人の華やかな音色が希望ホールを彩りました。
入場されたお客様からは「解説を踏まえて聴くことで演奏をより深く味わえた」「とても美しい音色に惹きこまれた」などの感想が聞かれました。