活動レポート
高橋多佳子 西荒瀬小学校クラスコンサート
ショパン国際ピアノ・コンクールで入賞されるなど、国内外で活躍されている高橋多佳子さんが、酒田市内の小学校を訪問し行ったクラスコンサート。アーティストが一定期間市内に滞在し、地域との交流を図りながら芸術の魅力を届ける事業『芸術家・地域ふれあい事業』の一環として実施しました。今回の滞在では、6月6日から1週間酒田市に滞在し、富士見小学校、泉小学校、若浜小学校、西荒瀬小学校を訪問。感染症対策を講じた上で、華麗な演奏と、ピアノの構造について学んだ45分間でした。今回は西荒瀬小学校でのクラスコンサートの様子をレポートします。
児童たちの元気な拍手に迎えられて登場した高橋さん。
まず、児童たちに曲名を伏せたまま高橋さんが披露したのは、ショパン作曲の『夜想曲第4番 ヘ長調 作品15-1』。最初は伸びやかで優しい旋律がしばらく続きますが、急に曲調が変わり激しい部分に入ります。その後、再び穏やかな曲調に戻り、曲は終わります。

高橋さんの表現力豊かな演奏に、児童たちは釘付けになっていました。演奏が終わり、高橋さんは児童たちに曲の印象について問いかけてみると、
「優しい感じから怒った感じに変わる」
「あたたかい時から寒い時になる」
などの感想があがりました。高橋さんは、
「それぞれの感じ方で正解です」と語り、聴き手によっていかようにも想像を膨らませることができる、音楽の素晴らしさについて語りました。
次に高橋さんは、戦争に翻弄されたショパンの、波乱に満ちた生い立ちについて説明しました。ショパンが曲に感情を乗せることに長けていたことも挙げ、「別れの曲」で知られる『練習曲作品10第3番 ホ長調』、「革命のエチュード」で知られる『練習曲作品10第12番 ハ短調』と、2曲続けてショパンの曲を演奏しました。
演奏の後、再び児童たちに曲の印象について聞いてみたところ、
「戦争の悲しみを感じた」
「戦争で自分の国が侵攻されているような感じ」
などの感想があがり、高橋さんのお話を聞くことで、ショパンの怒りと悲しみに満ちた人生について想起する児童もいたようです。

続いては、モーツァルト作曲の『ピアノソナタ イ長調 K.331《トルコ行進曲付》』(第3楽章)。この曲が書かれたのは1700年代。その頃、西欧ではトルコ趣味が流行しており、モーツァルトもその流行に乗ってこの曲を書いたと言われています。
トルコ行進曲-聞いたことがある曲名に、児童たちはとてもワクワクしている様子。いざ曲が始まると、軽快ながらも力強い演奏に、児童たちは圧倒されていました。
演奏が終わると高橋さんは、この曲独特のリズムに合わせて手拍子をするように、児童たちにお願いしました。体を左右に揺らしながら手拍子をしたり、ピアノの音の強弱に合わせて手拍子の強さも変化させたりなど、まるで‟全員で演奏している”ような体験に児童たちは興奮していました。
続いては、ピアノの構造に迫るコーナー。
高橋さんが、屋根を外したピアノの内部の構造やそれぞれ違う役割を持つ3つのペタル(音を持続させる機能を持つ「ダンパーペダル」、任意の音だけを持続させる機能を持つ「ソステヌートペダル」、音を柔らかくする機能を持つ「ソフトペダル」)、どのような仕組みで音が出るのかについて、図を用いながら説明していきます。
ピアノの内部には200本以上弦が張られていること、ペタルを用いることでその弦の振動を調節し、効果がついた音が出ることなど、実際に音を出しながら、高橋さんがわかりやすく説明しました。
普段音楽の授業で見慣れているピアノの仕組みについて詳しく教えてもらった児童たちは、感嘆の声を漏らしたり、立ち上がったりするなど、ピアノに興味津々な様子でした。

ピアノの構造についてのお話の後に、高橋さんが披露したのは、ドビュッシー作曲の『ベルガマスク組曲より 第3番 月の光』。
「音を柔らかくする効果がある左のペダルをたくさん使う曲です」と高橋さん。
まるで月の光が差し込んでいるような高橋さんの穏やかで優しい演奏に、児童たちはじっくりと耳を澄ませていました。 時々弦やペダルを覗きながら聴いている児童もいました。
クラスコンサートの締めくくりとなった曲は、ラフマニノフ作曲の『ピアノ協奏曲第2番ハ短調作品18』です。
この曲は、ラフマニノフが作曲家としての名声を確立した曲であり、ロシアのロマン派音楽を代表する曲の一つに数えられています。本来はピアノとオーケストラで演奏するところを、高橋さんはどちらのパートも一人で演奏しました。
高橋さんは体全身を使って演奏し、その迫力に児童たちは再び圧倒されているような様子。演奏が終わり高橋さんが天を仰ぐと、割れんばかりの拍手が会場に響き渡りました。

最後は質問コーナーです。クラスコンサートを聴いて高橋さんに訊きたいことがたくさんできた児童たちから、たくさん手が挙がりました。
その中で、「ピアノを上手に弾くにはどうしたらいいですか」という質問に対して、
「練習はもちろんだけど、外の景色を見たり、本や映画を見ることも大事だよ」と語りました。
高橋さんの素晴らしい演奏を堪能しただけでなく、感性を磨くことの重要性について学ぶことができたクラスコンサートでした。