酒田市民会館 希望ホール KIBOU HALL

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活動レポート

梅津碧さんクラスコンサート

新堀小学校

2022年11月15日(火)

国内外で活躍する山形県長井市出身のオペラ歌手 梅津碧さんが「芸術家・地域ふれあい事業」の一環として、ピアニスト 齋藤友佳さんと共に、酒田市の小学校を訪問しクラスコンサートを行いました。

お二人は11月13日(日)から本市に滞在し、14日から18日までの間、南平田小学校、新堀小学校、松陵小学校、松山小学校、広野小学校、黒森小学校の6校7クラスを訪問。

今回は、新堀小学校5年生6名に向けて行ったクラスコンサートの様子をレポートします。

暖かい拍手で、教室に迎えられたお二人。最初の曲は、歌劇『ロメオとジュリエット』よりジュリエットのアリア「私は生きたいの」

梅津さんの瑞々しく表情豊かな歌声が響き渡り、音楽室が一瞬にして歌劇場になったかのようです。

「こんにちは。オペラ歌手の梅津碧です。今日は、皆さんに少しでも私の大好きな歌の魅力が伝わるようにがんばりますので、よろしくお願いします」

と挨拶すると、子どもたちから大きな拍手が起こります。

梅津さんがお話します。

「オペラってなんだか分かりますか? オペラは演劇の一つです。ドラマや映画などで俳優さんが話しているセリフを、歌で表現し、音楽で物語を進めていくのがオペラです」

「皆さんにクイズです。オペラ歌手はなぜこのような独特な歌い方をするでしょう。次の3つから選んでくださいね。

1 格好いいから

2 大きい声が出るから

3 楽だから 

のどれでしょう」

子どもたちは「楽じゃないよね~」などと相談し合いながら、各々正解と思う番号に挙手します。「2 大きい声が出るから」に多く手が挙がりました。

「正解は・・・・・、全部です!!」

梅津さんの回答を聞いて、子供たちは「え~!!」と驚きの声を上げます。

梅津さんが続けます。

「オペラ歌手は、通常2~3時間、長い作品だと4時間歌いながら演技を続けます。大きな劇場で遠くの席のお客様にまで、セリフである歌声を届けるために、大きな声を出さなければなりませんし、長時間歌い続けるために喉に負担をかけないよう、楽に歌えなければいけません。そしてもちろん美しく、格好良く演じなければなりません」

「次の問題です。声の種類はなにがあるかわかりますか」

梅津さんの質問に対して、「ソプラノ」と一人から声があがりました。

梅津さんが笑顔で続けます。

「正解です。女性の高い声の種類をソプラノ、女性の低い声をアルトと言います。男性の高い声をテノール、低い声をバスと言って、この4つは皆さんも聞いたことがあると思います。声の種類はもっと細かく分かれていて、最も高い声を『コロラトゥーラソプラノ』と言います。私はこのコロラトゥーラソプラノです。高い声をコロコロと転がすように歌うところが特徴の音域です」

「次に歌う曲は、魔笛というオペラの中で、夜の女王が歌う、コロラトゥーラソプラノの最も有名とも言われている曲です。皆さんもテレビなどで聞いたことがあると思いますが、どのようなシーンで歌われているか知っていますか」

梅津さんが、オペラの1シーンを簡単に解説します。全く想像していなかったストーリーを聞いて、子どもたちはその意外性に驚きを隠せない様子です。

歌が始まりました。齋藤さんのピアノが夜の女王の背景を鮮やかに彩り、気迫のこもった女王の圧巻の歌声に、子どもたちも先生たちも息をのみます。

3曲目は、『ホフマン物語』よりオランピアのアリアです。

梅津さんが楽曲の説明を始めますが、喉の調子がおかしいのでしょうか。上手く話すことができません。水を飲んだ後、説明を再開します。

「ホフマンが最初に恋に落ちた女の子オランピアは、実は人間じゃ・・・・、なかったんで・・す・・・・」

梅津さんが動かなくなってしまいました。齋藤さんが声をかけても全く動きません。希望ホールスタッフも急いで駆け寄ります。周囲になにか役立つものが無いか見渡すと、教室の隅にゼンマイのようなものがありました。齋藤さんが子どもたちに声をかけます。

「だれか助けてくれないかな~!」

齋藤さんの求めに応じて、一人の生徒が、そのゼンマイのようなもの=ラチェットを『ガリガリ』と廻すと、なんと梅津さんが動き出したではありませか。実は、人形のオランピアを演じていたのです。オランピアのアリア「生垣に小鳥たちが」の始まりです。

愛らしいお人形が、小鳥たちとの会話を楽しむかのように、美しい高音で恋心を楽し気に歌い紡ぎます。ホフマンと一緒に、教室のみんなもオランピアに恋してしまいそうです。

人間に戻った梅津さんがお話します。

「今、皆さんからはラチェットという打楽器で、作品に参加してもらいました。次は、この曲に歌で参加してもらおうと思います」

齋藤さんがピアノで奏でる曲は、誰にも聞き覚えのある「きらきら星」です。

梅津さんが、歌にとって大切な「呼吸」について説明します。

「歌には、呼吸がとても大事です。息をいっぱい吸わないと歌えないし、いっぱい吸うためには息をしっかりと吐き切らないといけません。体全体を使って呼吸しましょう」

齋藤さんの演奏する「ラジオ体操」の曲に合わせて、教室にいるみんなで深呼吸を繰り返しました。

「私はいつも、あばら骨を動かして広げるように意識しながら、呼吸しています。触ってみてください」 梅津さんの脇腹に触れ、肺の広がりを直に感じた子どもたちからは「うあ!ヤバ!!」と、驚きの声が上がります。

梅津さんが、歌にとってもうひとつ大切なことをお話します。

「声楽と、ピアノやヴァイオリンなどの器楽とは、大きく違う点があります。なんだかわかる人いますか?校長先生はいかかですか?」

「自分の体を使うこと」と校長先生が答えます。

「そうですね、自分の体が楽器であること。これも違いの一つです」

と梅津さん。

「もう一つ大きな違いは、歌詞があることです。どのように歌うかによって、聴いている人の歌詞の意味の感じ方、受け取り方が違ってきます」

「今日は歌詞の意味をしっかり理解するため、そしてコロナ禍なのであまり大きな声も出し辛いので、手話と一緒に歌ってみたいと思います。私と一緒にやってみましょう」

子どもたちにとって初めての手話でしたが、梅津さんの動作に倣って、ゆっくりと「きらきら星」を手話をつけながら歌うことができました。

「きらきら星変奏曲」が始まりました。1番は、梅津さんがドイツ語の歌詞で歌い、2番で子どもたちが手話つきで一緒に歌います。「きらきら星」のメロディーがやさしく穏やかに流れ、みんなの手から星の瞬きが生まれました。3番では、コロラトゥーラソプラノの技巧がふんだんに詰まった編曲のもと、齋藤さんの巧みなピアノ演奏とともに、梅津さんの伸びのある艶やかな歌声が響き、子どもたちは歌の世界に一気に引き込まれました。

最後の曲の前に、梅津さんが、なぜオペラ歌手の道に進んだのかを話します。

「私は、皆さんと同じように普通の小学校に通っていました。長井北中学、長井高校に進み、音楽と全く関係のない大学に進学しました。大学2年生の時、長井市民文化会館でオペラの公演があったのですが、偶然観に行ったその公演の主役の歌声に、頭蓋骨に響くというか、鼓膜の奥がくすぐられるというか、大きな衝撃を受けました。私もこんな風に歌ってみたい、と思い、その歌手の人にお願いしたところ、受け入れていただき歌の勉強を始めることができました。そして、その方の強い勧めで音楽大学に進学し、現在の私があります。いつ、どんなふうにチャンスが訪れるか、どんなきっかけがあるか分かりません。小学5年生のみなさんの周りには、たくさんのチャンスが溢れています。多くのことに挑戦して欲しいし、いろいろなことにアンテナを張って欲しいと思います。人と人との出会いや縁、不思議なめぐり合わせに思いをはせながら、私の経験と大きく重なる曲、中島みゆきさんの『糸』を最後に歌います」

梅津さんの、限りなく澄んだ歌声が、教室のみんなをやさしく包み込みました。

クラスコンサート終了後、先生が「お二人に感想を言ってくれる人は?」と声をかけると、子どもたち全員が勢いよく挙手しました。

「なぜオペラ歌手が、あの歌い方をするのかを知ることができて良かったです」

「きらきら星を一緒に歌ったり、碧さんのきれいな歌声を聴くことができてとても良い体験だったと思います」

「碧さんの歌声がとてもきれいで、友佳さんのピアノもとても上手でした」

「碧さんと友佳さんの、息がぴったりと合っていて良かったです」

「肺をとても大きく膨らませて歌っていて、すごいと思いました」

「初めて生で歌を聴いて、迫力がものすごかったです」

一人ひとりが自分の言葉で、生き生きと感想を述べる姿が、とても印象的でした。同席した校長先生からは「5年生6名にとって、とても貴重で特別な体験となりました。子どもたちがお二人の演奏に引き込まれ、集中している姿、積極的に感想を話す姿に感動しました」という声をいただきました。

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