活動レポート
地域ワンコインコンサートvol.3~田中靖人&新居由佳梨
ひらたタウンセンター シアターOZ
2022年11月12日(土)
11月6日から酒田市に滞在し、市内の小学校6校でクラスコンサートを行った田中靖人さんと新居由佳梨さんが、ひらたタウンセンター シアターOZにてワンコンサートを開催しました。こちらは、アーティストが一定期間本市に滞在し、地域との交流を図りながら広く芸術の魅力を届ける「芸術家・地域ふれあい事業」の一環として実施しました。
ひらたタウンセンターは、平田地区の中心部にあり、シアターOZは地域の皆さんの文化活動・生涯学習活動の発表や映画上映会、講演会などに、幅広く利用されている多目的施設です。
開場前から、100人以上の方が当日券を求めて列をなし、シアターOZはお二人の公演を待ちわびる180人のお客様でほぼ満席となりました。小学校クラスコンサートで訪問した学校の子どもたちも、保護者と一緒に大勢、駆けつけてくれました。また、以前からのお二人のファンの方々が、市外・県外からも数多くいらっしゃいました。
大きな拍手に迎えられステージに現れた、田中さんと新居さん。一曲目は、クラスコンサートでも演奏された、J.Sバッハ作曲『ソナタ変ホ長調より第一楽章』。まろやかなソプラノサックスの音色とそれを華麗に彩るピアノの響きが、バロックの華やかな世界に観客を誘います。

演奏を終えると、田中さんはマイクを持ち観客に語りかけました。
「皆さんこんにちは。私たちのワンコインコンサートにようこそおいでくださいました。
このシアターOZに初めてお邪魔しましたが、すぐ向こうに鳥海山が見える大変素敵な会場ですね。おうかがいした小学校からも皆さん来てくれて大変嬉しいです。今日は、サックスとピアノについてのお話を交えながら進めていきますので、ぜひリラックスしてお楽しみください」
「この『ソナタ変ホ長調より第一楽章』はバッハがフルートのために作った曲ですが、今日はサックスとピアノで演奏しました。サックスは7種類もあり、全種類でアンサンブルを行うと、まるで人の合唱、または大勢での弦楽器の合奏のような、幅のある演奏を行うことができます」
田中さんが語るサックスの特徴や歴史についてのお話は興味深く、頷きながら、熱心に話に耳を傾ける観客もいました。

次に演奏する曲は、ビゼー作曲の『アルルの女』です。重厚で哀愁に満ちたピアノの前奏で始まり、アルトサックスの情感豊かなメロディーにより、南フランスの自然豊かな情景が会場に広がるかのようです。
「サックスが発明される以前の作曲家が作った管弦楽の曲には、サックスは含まれていません。ビゼーの時代の頃から、サックスがオーケストラの構成に加えられるようになりました。有名な曲ですとラベル作曲の『ボレロ』や、ムソルグスキー作曲の『展覧会の絵』があります。私もときどき『展覧会の絵』の演奏に加わることがあるのですが、全体で35~40分ぐらいの曲のうちサックスの演奏は30小節ほどのソロで、曲の前半で終わってしまうんです。終盤、周りのオーケストラが盛り上がっているとき『特等席』でだまって演奏を聴いています。もっと演奏させてほしいなぁと思ったりしますね」
田中さんのユーモアを交えたお話に、会場からは笑い声が起きます。
次の曲は、P.クレストンがサックスのために作曲した『ソナタより第一楽章』。穏やかな曲調から激しく情熱的な情景へと、幾度となく場面転換する演奏に、客席が惹き込まれます。
続いては、新居さんによるピアノのお話とソロ演奏です。
「皆さん、こんにちは。このように大勢お集まりいただき、本当にありがとうございます」
ご挨拶のあと、新居さんがお話します。

「これから演奏する曲は『月の光』です。皆さん、今週の月食をご覧になりましたか。私もこの山形の地で、とても綺麗な皆既月食を見ることができて嬉しく思いました。滞在していた間、天気に恵まれ、毎晩綺麗な月を眺めることができ、本当に自然の力に癒された一週間でした。泊っていたホテルの名前にも「月」がついていたんですよ」
「光が降り注ぐかのような幻想的なこの曲。何を照らしているのか、自分が照らされているのか、風は吹いているのかなど、無限に想像が広がります。この曲が作られた当初、ドビュッシーは『感傷的な散歩道』という題名を付けました」
新居さんが作曲された背景、モデルとなった人物像などを語りました。
「皆さん、これからここは夜になります。ご自分だけの月の光を探してください」
演奏が始まると共に、ステージ上の照明が静かな青に変わり、スポットライトの中の新居さんは、まるで暖かな月光に照らされているかのようです。
ピアノの豊かな和音と美しい旋律に、会場は輝く月の光に満たされたかのようでした。

田中さんがステージに戻り、お二人で酒田でのクラスコンサートの思い出や、印象に残ったことをお話します。酒田は食、自然、歴史の宝庫であり、とても楽しくて美味しい一週間だったと笑顔で語っていただきました。
最後の曲は、R.モリネッリ作曲『ニューヨークの4つの絵』より第4楽章「ブロードウエイ・ナイト」。田中さんの類まれな演奏技術と表現力、新居さんの繊細で華麗なピアノ演奏に、観客は息をのみます。

鳴りやまない拍手に応えて演奏されたアンコール1曲目は、ケルティック・ウーマンが歌い人気を博した「ユー・レイズミー・アップ」。優しく、そして力強い旋律に包まれた会場は一体となり、思わず一緒に歌う観客もいました。
アンコール2曲目を、田中さんが紹介します。
「僕の大好きなアメリカの作曲家、ガーシュインの『魅惑のリズム』を演奏します。ちょっとジャジーな素敵な曲です。どうぞお楽しみください。今日は本当にありがとうございました」
お二人の奏でる、息の合った、軽やかで限りなく心地よいジャズの調べに会場全体が酔いしれました。

アンケートでは、「初めて生で聴きましたが、最高でした。血が騒ぎました」「アナリーゼワークショップに引き続き、楽しませていただきました。2月のコンサートも楽しみにしています」「小学校での演奏と、子どもたちが喜んで聴いている様子を見て、私も聴きにきました。ありがとうございました」「ハードルが高いと感じていたクラシック音楽が、とても心地よく感じられうれしかったです」など、多くの喜びの声が聞かれました。