活動レポート
新野将之パーカッション・リサイタル The World of Percussion ~魅惑の鼓動に酔いしれる120分間~
希望ホール 大ホール
国内外のコンクールで受賞歴を多く重ね、全国各地でリサイタルやアウトリーチ活動を行うなど、幅広く活躍する打楽器奏者・新野将之さんのパーカッション・リサイタルの模様をレポートします。

密林を模したステージに、鳥や獣のような鳴き声が響き渡り、まだ暗い中に登場した新野さんが演奏を始めます。大きな掛け声を合図に一気に舞台が明るくなると、新野さんが迫力ある声とともにジェンベを激しく叩き出しました。N.J.ジブコビッチ作曲『トゥー・ザ・ゴッズ・オブ・リズム』です。野性的で迫力満点のステージに、演奏が終わると会場からは大きな拍手が鳴り響きました。
「本日は、様々な打楽器を駆使して皆様をまだ見たことのない新しい世界へとお連れします。第1部は打楽器の紹介や歴史についてのお話を交えながら演奏したいと思います」
演奏後の少し息の上がった様子で新野さんがご挨拶します。
打楽器には、大きく分けて木・金属・皮の張ってある楽器の3種類があり、それぞれカスタネット、トライアングル、スネアドラムを取り上げて少しずつ演奏しながら紹介していきます。
続いてはスネアドラムのソロ曲、A.ゲラシメス作曲『アスヴェンチュラス』です。 スティックやスネアドラムの縁、さらにはスタンド部分を使って演奏される、1台のスネアドラムとは思えない多彩な音色に会場は一気に引き込まれていきます。
次はタンバリン。共演者である藤澤仁奈さんを迎え、タンバリンのデュオ曲、B.ロペス作曲『カンバセーション』が演奏されました。その名のとおり、まるで二つのタンバリンが会話しているようなリズミカルな演奏です。

マリンバとビブラフォンの楽器の紹介の後は、その二つによる二重奏曲A.コッペル作曲『トッカータ』。どこかノスタルジックな旋律を藤澤さんのマリンバと新野さんのビブラフォンの温かみに満ちた響きが奏でていきます。
第1部最後の曲は、美しい旋律を奏でる藤澤さんのマリンバと、迫力に満ちた新野さんのマルチセットによる加藤大輝作曲『ザ・ラスト・ダンス』です。グルーヴ感のある演奏に会場中が引き込まれました。


続く第2部は、第1部とは打って変わって、ドラマティックなステージがトークなしで次々に繰り広げられます。
真っ暗なステージに灯りがともり、電子的な音源とともに新野さんの演奏が始まります。第2部の1曲目、C.カンジェロシー『タップ・オラトリー』は、パントマイムとスネアドラムのコラボレーションです。時折スティックを回したり、頭上に掲げたり、スティックを投げてキャッチしたりと、視覚的にも印象的な1曲でした。

続くJ.スペンサー作曲『グルーヴ・フォー・ホープ』は、マリンバを弾きながらラップソングを歌う作品。新野さんご自身が、作曲者であるJ.スペンサーとメッセージのやりとりを重ねて完成したこの曲は、LGBTQ+や性的マイノリティの人々に向けた熱いメッセージが込められています。マリンバの温もりある音色とともに「本当に大切なものは何か?」「あなたは間違ってなんかいない。未来は明るい!」という歌を、新野さんは力強く歌いました。

続いての風間真作曲『メランコリー・イン・ザ・レイン』は、叶わぬ片思いを描いた曲です。甘く切ないビブラフォンの旋律が会場を包み込みます。
レスニック作曲『オリンピアン・ドラムス』は、東ヨーロッパに古くから伝わる「トゥパン」という太鼓とコンテンポラリーダンスが融合した作品です。古代ギリシャを表現しているこの曲では、怪しげな鐘の音に合わせて、新野さんが踊りながら演奏します。

I.クセナキス作曲『ルボンB』は、腕が3本なければ出来ないような箇所がいくつもあるほど難解だというこの作品ですが、10月8日に行われたアナリーゼワークショップで新野さんは、「この難解な楽譜は今のコロナ禍という社会状況と少し重なって感じる。無理だと匙を投げるのではなく、どうしたら改善できるのか、どうしたら乗り越えられるのか、そんなふうに考えて一歩前に踏み出せるのが人間。自分も挑戦をし続けて、少しずつ前に進んでいきたい」とこの曲についてお話されました。その言葉どおり、最後はパワフルなマルチパーカッションの様々な音色が響き渡り、会場は熱気と興奮に包まれたのでした。
アンコールは、スネアドラムのソロ曲E.ノヴォトニー『ア・ミニッツ・オブ・ニュース』。
新野さんはとても楽し気な表情で演奏され、その軽快なリズムにお客様は時折体を揺らしながら聴き入っていました。
さらに鳴りやまない拍手に応えて演奏したアンコールは、酒田市出身のシャンソン歌手・岸洋子の代表曲である『希望』・『夜明けのうた』。新野さんのビブラフォンと藤澤さんのマリンバが会場に優しく鳴り響きました。
アンケートからは、「希望が湧いてきた」「音楽から勇気づけられ元気を頂きました。」そんな感想が多く見受けられました。
コンサートのタイトル通り、打楽器の魅力と新野さん藤澤さんの素敵なお人柄にふれ、会場中が魅惑の鼓動に酔いしれた120分間となりました。
希望ホールでは、今年度から、国内外で活躍するアーティストによるアーティスト・イン・レジデンス事業を行っており、今回のコンサートはこの事業の一環として実施しました。
アーティスト・イン・レジデンス事業とは、国内を代表する一流のアーティストが酒田市に滞在し、公演やアナリーゼワークショップ、市内の小学校や特別支援学校でワークショップやクラスコンサートなどの活動を行うもので、幅広い市民の方にアートをより身近に感じていただくことを目的とした取り組みです。
10月の小学校クラスコンサート、アナリーゼワークショップそして今回の公演と一連の事業を通じて、多くの市民の方に打楽器の魅力を届けてくださった新野さん、藤澤さん。きっとファンになったお客様も多かったことでしょう。
