酒田市民会館 希望ホール KIBOU HALL

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活動レポート

中川賢一アナリーゼワークショップ 

希望ホール 大ホール

ピアニスト・指揮者として国内で幅広く活躍される中川賢一さんが、11月の希望ホールでの公演に向けて、プログラムを解説するアナリーゼワークショップが開催されました。

この事業は、アーティストが一定期間市内に滞在し、地域との交流を図りながらアートの魅力を届ける事業『アーティスト・イン・レジデンス』の一環として実施したものです。

ドビュッシー作曲『前奏曲集 第1巻より 亜麻色の髪の乙女』の演奏でアナリーゼワークショップの幕開けです。舞台上に設けた客席で、いつもよりも間近で聴く演奏に会場からは拍手が鳴り響きました。

続いてドビュッシー作曲『前奏曲集 第1巻』の曲目それぞれについて話していきます。

ドビュッシーはフランス生まれで、特徴は、それまでの時代とは異なる自由な和音です。『交響詩 海』の表紙には葛飾北斎の絵が使われるなど、ジャポニズムを好んだ作曲家でもあります。ここでは抜粋して前奏曲集から2曲の解説についてご紹介します。

楽譜に表記されている「Voiles」には、帆と衣服のベールと2つの意味があります。どちらと思って聴いてもらってもいいと話す中川さん。初めは全音階で書かれ、進んでいくと日本人が親しみやすい5音階の部分が出てきます。それぞれの音に対して、波やベールの揺れる様子など、自由に意味づけをしていっても面白いとお話しします。そしてまた全音階が出てきて、最後は低音が鳴り響く中で神秘的な雰囲気のうちに終わるのでした。

沈める寺

ここでの「寺」とは日本で言う寺院ではなくカテドラル、大聖堂を指します。フランスのブルターニュ地方にある海岸の町に、人々が不信仰であるために沈められたカテドラルがありました。それが時折海の中から現れては沈んでいく様子を表したとされるこの曲。四度音程が使われている冒頭は、海の中に沈んでいるカテドラルを表現しており、だんだんとゆっくり姿を現してきてとうとう地上に現れたカテドラルが、今度はまた海に沈んでいく様子が見事に表現されています。

続いては、ライヒ作曲「ピアノ・フェイズ」。スティーブ・ライヒは、ミニマル・ミュージックを代表するアメリカの現代音楽の作曲家です。

「ミニマル・ミュージック」とは、同じ旋律やリズムを何度も繰り返す手法による音楽です。二人で演奏する曲で、12個の音でできた同じ音型を、初めは2人の奏者が同じように繰り返し演奏しますが、1人が徐々にテンポを上げていきます。そうして段々とずれて響きが変化していく様子を楽しんでほしいという中川さん。最後は元にもどってテンポが合わさり、どこかまるで輪廻のようにも感じる響きを楽しんでほしいと中川さんはお話しします。本番は中川さんが録音されたご自分の演奏とのコラボレーションでお楽しみいただきました。

続いてはラフマニノフ作曲の『前奏曲 作品3-2「鐘」』、『前奏曲 作品32-13』の解説です。20代で初めて書いた交響曲が酷評され、4年間ほど精神を病んでしまったラフマニノフですが、精神科医に通い回復して書いた『ピアノ協奏曲第2番』で高い評価を得ます。その成功の中で書いた『作品32-13』と、18~19歳の苦悩の中で書いた『鐘』の2曲を今回のリサイタルでは演奏いただきました。

クレムリンの鐘を表したのではないかといわれる『鐘』。下がっていく半音階がドロドロした雰囲気を演出しています。中川さんは試しに半音階を使わずに演奏してみますが、聴き比べるとやはりその差は歴然で、ラフマニノフの感じていた苦しみが半音階によって表現されていることが分かります。最後は重々しく進んでいきながらも、なかなか曲が終わりません。ああでもない、こうでもないと未練や後悔を感じながら終わっていくような様子が表れているのだそうです。

『鐘』で象徴的に使われていたフレーズは、実は『作品32-13』でも多く使われています。しかし成功の中で書かれた『作品32-13』は、19歳の深い苦悩を最後に解決するかのように、長調で非常に朗らかな印象を与えます。同じく『鐘』では下がっていた半音階も、この曲では上がって希望が感じられる旋律を奏でます。

「最後まで鐘で使われたモチーフが出てきて、鐘と合わせて聴くと非常に面白いと思う」と話す中川さん。

最後は『作品32-13』を演奏してアナリーゼワークショップを締めくくりました。

曲が描かれた背景や、それぞれの曲で使われる和音やフレーズについての話を聞くことで、11月の公演がより楽しみになったという感想が聞かれました。

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