酒田市民会館 希望ホール KIBOU HALL

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活動レポート

中川賢一 広野小学校クラスコンサート

ピアニスト・指揮者として国内外で幅広く活躍される中川賢一さんが、酒田市内の小学校を訪問し行ったクラスコンサート。11月の希望ホールでの公演に向けて、アーティストが一定期間市内に滞在し、地域との交流を図りながらアートの魅力を届ける事業『アーティスト・イン・レジデンス』の一環として実施しました。今回の滞在では、10月24日から1週間酒田市に滞在し、富士見小学校、広野小学校、浜中小学校、亀ケ崎小学校、西荒瀬小学校、黒森小学校を訪問。感染症対策を講じた上で、迫力ある演奏と、ピアノの構造について学んだ45分間でした。今回は広野小学校でのクラスコンサートの様子をレポートします。

児童たちの拍手に迎えられて登場すると、おもむろにピアノの前に座り、聴こえてきたのは、ムソルグスキー作曲の『組曲 展覧会の絵より プロムナード』。

児童たちは耳なじみのある曲にじっと耳を傾けています。

「これから45分間どんな時間が過ごせるのか楽しみな気持ちを込めて演奏しました」

という中川さんに児童たちから大きな拍手が贈られます。

続いてはドビュッシー作曲の『アラベスク第1番』。

アラベスクとは、アラビア風という意味で、アラビアの絨毯で使われる唐草模様が音楽になったと言われています。先ほどのくっきりとしたメロディのプロムナードとはうって変わって流れるような雰囲気の音楽が紡がれていきます。

中川さんは、「100年前のヨーロッパの曲はどう聴いたら正解なの?と難しく感じるかもしれないが、ただ純粋に耳を傾けてほしい。面白いと思ったら面白いし、つまらないと思ったら眠ってしまっても構わない、自由に楽しんでもらいたい」

とお話して演奏を始めました。また、1人でも多くの作曲家の名前を覚えてほしいという思いから、曲目の説明の際には必ず作曲家の名前を皆で復唱しました。

児童たちは、先ほどと全く違うメロディや中川さんの指の動きに注目しながら聴き入っていました。

そして同じくドビュッシー『ベルガマスク組曲より 第3番 月の光』に続きます。

夜、月が池に浮かんだ姿が、風が吹いたり止んだりすることで、その姿を変える様子を表したのではないかとも言われる『月の光』。

「情景を想像しながら聴いてもいいし、そうでなくともいい。例えばここは緑色、ここは黄色、ここはレモンの香り、ここは森の中、それとも海の近く…?そんなふうに、みんなが同じ音楽を同じように捉えるとは限らない。よろしければ目をつむりながら、よろしければ寝ながら、どんな風に聴いてもいいですよ」と中川さんがお話しします。

教室のカーテンを閉め、灯りを消して、カーテンの隙間から差し込むわずかな日光が月の光のように感じられるような音楽室の中で、児童たちは思い思いに目を瞑ったりリラックスしたりしながら聴いていました。

月の光の演奏が終わり、「おはようございます~」と中川さん。「一瞬でも寝ちゃった人はいますか?」との問いに何人かの手が挙がりました。

中川さんは、「音楽にはいろいろな力があると信じていします。勇気を出してくれる曲があったり、一緒に悲しんでくれる曲があったり。もし聴いていて眠ったのだとしたら、それはきっと心地よく感じたということだと思います」

音楽の聴き方や感じ方に正解はなく、自由に聴いていいということを、児童たちは体験を通じて学びました。

さて、ここからはピアノの内部の構造に迫るワークショップコーナーです!

天板を外したピアノの内部や、鍵盤の中を表した模型であるアクションカットモデルを、ビデオカメラでテレビの画面に映しながら説明していきます。

「ハンマーの部分が何でできているか分かる人?」という中川さんからの質問に、「羊の毛!」との元気な声が児童たちから上がりました。「正解!これはぐーっと固めた羊の毛なんですよ。」と中川さん。

アクションカットモデルのしくみを見た後は、マレットで弦をたたいたりピンポン玉を置いたりして弦が振動する様子を見たり、弦から駒、そして響板を伝って音が出る仕組みを学びました。

小さなオルゴールをピアノ内部の響板に触れさせると、それまで小さかったオルゴールの音が、なんとも不思議なことに、とても大きく響き、児童たちからは驚きの声が上がりました。

それから中川さんが演奏しているときの響板の振動を、全員が響板に触れながら実際に体験することができました。

最後は、弦の上に大量のピンポン玉を乗せて、中川さんの演奏でピンポン玉が跳ねる様子を見てみます。ピンポン玉が勢いよく跳ね飛ぶ様子に、児童たちは大喜びで見入っていました。

最後に演奏するのは、ムソルグスキー作曲『組曲 展覧会の絵より キエフの大門』です。

『キエフの大門』は、ムソルグスキーが亡くなった建築士の友達の家にあった絵を見て作ったピアノ曲です。「キエフの大門の絵自体は、とても小さいサイズのものであったが、そこから作られたこの曲はとてもダイナミックで迫力に満ちたもの。その曲が、140年ほどたった今でも世界中で演奏され、こうして日本人が聴いているというのはすごいことだと思う。今日のお話しを思い返しながら聴いてほしい。」という言葉で締め括りました。

ピアノの構造を知ってからの演奏はまた違って聴こえたようで、児童たちは時折ピアノの中を覗き込むようにしてじっくりと聴き入っていました。

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