活動レポート
地域ワンコインコンサートvol.2~新倉瞳&佐藤芳明
7月3日から酒田市に滞在し、市内の小学校5校でクラスコンサートを行った新倉瞳さんと佐藤芳明さんが、松山城址館にてミニコンサートを開催しました。今年度よりスタートした企画、「地域ワンコインコンサート」の第2回目です。こちらは、アーティストが一定期間本市に滞在し、地域との交流を図りながら広く芸術の魅力を届ける「芸術家・地域ふれあい事業」の一環として実施しました。
松山城址館は、松山地区の中心部にあり、地域の皆さんの文化活動の発表・練習の場となっている他、各種教室や勉強会、サークル活動など幅広く利用されている多目的な施設です。
今回は、能舞台を養生するなどして、コンサート会場として設えました。
地域の慣れ親しんだ施設でミニコンサートを行うことで、普段、様々な理由により希望ホールに足を運ぶことが難しい方々にも、気軽に一流の芸術にふれていただくこと、アーティストに間近にふれていただき、その魅力を知っていただくことを目的として、開催しました。開場直後から、大勢のお客様が城址館を訪れ、中にはクラスコンサートで訪れた小学校の子どもたちが、ご家族と一緒に来場する姿も多数見受けられました。満席となった会場のあちらこちらからは、新倉さんと佐藤さんの演奏を待ちわびる声が聞こえてきました。
大きな拍手に迎えられ松山城址館の能舞台に現れた、新倉さんと佐藤さん。一曲目はサン=サーンス作曲『動物の謝肉祭』より第13曲「白鳥」。こちらはクラスコンサートでも最初に演奏された曲です。厳かな能舞台の上で紡がれるチェロとアコーディオンの美しく穏やかな音色に、会場は一気に惹きこまれます。


演奏を終えると、お二人はマイクを持ち会場に向かい語りかけます。
「おうかがいした小学校からも皆さん来てくれて大変嬉しいです。本当にありがとうございます」
と話す佐藤さん。
新倉さんが、会場内にいる子供たちのお顔を確認しながら手を振り、
「クラスコンサートでは、子どもたちから元気と沢山の思いをいただきました。とても幸せなことだと感謝しています」
とクラスコンサートの思い出を語ると、深く頷きながら、熱心に話に耳を傾ける児童もいました。
次に演奏する曲はヘンデル作曲の『ハープシコード組曲第1集』第7番ト短調より「パッサカリア」です。お二人はこの曲について、8小節で成るテーマを、色々なバリエーションで様々に形を変えて変奏していく曲であること、元はヴァイオリンとチェロのために作られた曲だが今回はアコーディオンとチェロという楽器ならではの編曲で、それぞれの楽器の魅力、響きを楽しんで欲しい、と話しました。
重厚で哀愁に満ちたハーモニーで始まったのち、同じ旋律が、テンポを次々と変えて奏でられ、その自由で独創的な演奏とドラマチックな音色は会場を幻想の世界へと誘いました。
続いては、「2つの楽器のための2つのカノン」。この曲は、佐藤さんが新倉さんの依頼を受けて作曲したものです。この曲について、佐藤さんは次のように語りました。
「チェロとアコーディオンのために作られた曲というのは、ほぼ無くて、ですから今回この2つの楽器のために作曲しましたが、他の楽器でも演奏して欲しいと思い、色々な楽器の編成で演奏できるように作りました。また、この曲にはアンサンブルで演奏する際に大切にしている2つの事柄「寛容」と「琢磨」を題名に付けました。お互いに『こうだよね』とやり取りをしながら寛容な気持ちで演奏したいという思いと、お互いに琢磨し高め合って行きたいという思いを込めて作曲しました。」
演奏は、郷愁を感じさせる穏やかな曲調から激しく情熱的な情景へと展開し、輪唱のように繰り返され豊かに広がるメロディはどこか輪廻を感じさせます。

次は、お二人が長く一緒に演奏活動を行うきっかけともなった曲クレズマー(東欧の伝承曲)より、「Nign(ニグン)」、「Kolomeyke(コロメイカ)」です。
新倉さんは
「『Nign』はヘブライ語が起源の『お祈り』という意味で、この曲を口ずさんでいれば、どんなに離れていても心は繋がっているというい思いが込められた曲です。『Kolomeyke』はウクライナ地方の影響を受けた曲で、先日のアナリーゼワークショップでも演奏した際、会場の皆さんから手拍子していただきました。今日ももしよろしかったら、手拍子などで私たちの演奏を盛り上げてください」
と話しました。
新倉さんの歌で「Nign」が始まります。透き通る歌声に寄り添うように、穏やかにチェロとアコーディオンが奏でられます。打って変わって、新倉さんのステップを合図に「Kolomeyke」に入ると、軽快でスピーディな曲調となり、会場の手拍子に合わせて、お二人は笑顔で演奏しました。

続きまして、ルーマニアを舞踊を表現したバルトーク作曲の「ルーマニア民俗舞曲」です。この曲は、今回の酒田市滞在中、ほとんどのクラスコンサートで演奏されました。お二人は、児童の皆さんがこの曲を聴いてどんな印象や感想を述べてくれたか、教室でのやりとりをお話してくれました。
民俗舞踊の6つの情景が、それぞれ鮮やかに奏でられます。会場に響き渡るチェロとアコーディオンの情感豊かな音色は、お客様を遥か昔のルーマニアへと誘いました。
最後は、久石譲作曲の「人生のメリーゴーランド~『ハウルの動く城』メイン・テーマ~」。佐藤さんは、映画「ハウルの動く城」で、この曲を実際に演奏しています。
演奏に入る前、新倉さんは改めて酒田でのクラスコンサートを振り返り、
「私たちがどういった曲を弾くか、どのように取り組んでいるか、彼ら彼女らに如実にダイレクトに伝わり、非常に鍛えられた一週間でした」
と語りました。
アコーディオンの情感溢れるイントロダクションが奏でられた後、チェロが豊かに主旋律を歌います。会場全体が一気に「ハウルの動く城」の世界に引き込まれ、美しい旋律とともに一体となりました。

鳴りやまない拍手に応えて演奏されたアンコールは、佐藤さん作曲の「午前3時のJig」。
佐藤さんが、会場にやさしく語りかけます。
「ブルガリアと北欧のノルウェイ、スウェーデンの音楽を僕が混ぜ合わせた、どこの国でもない、どこの国にも無い27拍子の曲です。この曲を最後にお届けします。今日は本当にありがとうございました」
心地よく不思議なリズムが刻まれ、複雑で美しい二つの楽器の響きが会場を幻想的な世界へと誘いました。会場のお客様は、遠く北欧に広がる広大な自然や人々の営みに思いを馳せながら聴かれたのではないでしょうか。
アンケートでは、「久しぶりに生の音楽を手軽に楽しむことができて、しかもお二人の真剣で素晴らしい演奏を聴くことができて大満足でした」「チェロが色々な音色を出して驚きでした。アコーディオンもピアノ、パイプオルガンに匹敵する迫力があり、お二人とも素晴らしいの一言です」「子供が学校でクラスコンサートを聴いてきたのをきっかけに来場しましたが、音楽に気軽にふれる良い機会となりました」など、多くの喜びの声が聞かれました。