酒田市民会館 希望ホール KIBOU HALL

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活動レポート

新倉瞳さん・佐藤芳明さんクラスコンサート

松原小学校

2022年7月8日(金)

国内を代表するチェリストの一人、新倉瞳さんと、幅広いジャンルで活動を続けるアコーディオニストの佐藤芳明さんのお二人が「芸術家・地域ふれあい事業」の一環として、酒田市の小学校でクラスコンサートを実施しました。

お二人は7月3日(月)から本市に滞在し、宮野浦小学校、平田小学校、琢成小学校、一條小学校、松原小学校の5校8クラスでクラスコンサートを行いました。

今回、松原小学校でのコンサートの様子をレポートします。

大きな拍手で、教室に迎えられたお二人。新倉さんが「松原小学校5年3組の皆さん、こんにちは」と挨拶すると、子どもたちも「こんにちはー」と声を揃えて元気に答えます。

一曲目の演奏が始まりました。チェロが奏でる伸びやかな旋律と、アコーディオンの揺れるような優雅な音色が音楽室に流れます。

演奏を終えて、新倉さんがお話します。

サン=サーンスが作曲した、『白鳥』という曲を演奏しました。酒田には、冬に沢山の白鳥が飛んでくると伺いました。皆さんにとって、とても身近な鳥ですね。音楽は、いろいろな動物、様子を表すことができるのですが、悲しい感情、嬉しい感情、怒った感情といった様々な気持ちも音楽に託すことができます。今日は、そういった気持ちやモチーフなどを音楽と一緒に皆さんにお届けしたいと思います。質問があったらどんどん聞いてくださいね

どんな質問でも、大丈夫ですよ

と佐藤さんが促すと、さっそく手が上がります。

「いつ頃作られた曲なんですか」という質問に、新倉さんがお話します。

大体200年くらい前に作られた曲です。なぜ、そんなに昔の曲を演奏できるかというと、楽譜というものが残っていて、これは作曲家の人たちから私たちへ向けたお手紙のようなものです。ここには色々な情報が詰まっているので、楽譜や音符が読めるようになると、昔の人が書いた音のお手紙を読むことができるんです

大きくうなずきながら、子どもたちは新倉さんのお話に聞き入っていました。

次は佐藤さんへの質問です。

「アコーディオンは、右手と左手の感覚だけで全部演奏しているのですか」

頭を使っているのが3分の1、身体を使って、トレーニングをしてできるようになった部分が3分の1です。少し楽器の話をすると、左手側は全く見えません

右手と左手が、アコーディオンのどの部分に触れて、どのように音色が変化するか、様々なパターンを示しながら楽器の構造について説明します。

鍵盤が付いているところは、ピアノと一緒ですが、ハンマーで弦を叩いて音を出すピアノと違って、アコーディオンは、蛇腹を使って空気を送り込んで音を出しているんですよ

その後、子どもたちは、直接鍵盤やボタンに触れさせてもらい、実際どのような音が出るか体験しました。

続いて、新倉さんがチェロについてお話を始めました。

チェロは人の声に近い楽器と言われていて、幅広い音域の音を出すことができます。それは、ヴァイオリンと違って弦がとても長いからです。この長い弦の下から上まで使って、高い音から低い音まで出すことができます

アコーディオンは両手を使って伴奏とメロディーの両方を演奏しますが、チェロはもともとはヴァイオリンの伴奏のために生まれた楽器です。今日は、アコーディオンが一緒なので、チェロがメロディーを演奏させてもらうことも多いと思います。この二つの楽器で行ういろいろな対話・やりとりを、ぜひ聞いてください

次の曲はバルトーク作曲『ルーマニア民俗舞曲』です。

ルーマニアという国を知っていますか。ルーマニアの、とあるものをモチーフにした6つの組曲です。アコーディオンは先ほど説明していないボタンも使いながら演奏します。チェロも1曲目では出てこなかった奏法が出てきます。この点に注目しながらお聴きください

チェロとアコーディオンによって、次々と違った表情で現れるリズムやメロディに、子どもたちは惹きこまれているようでした。

なにをモチーフにした曲でしょうか、3択にしましょう。1番、ルーマニアの『食べ物』、2番は『踊り』、3番は『女の子たち』。どれだと思いますか?

新倉さんと佐藤さんが問いかけると、子どもたちは自分がイメージする番号に、各々手を挙げました。

佐藤さんがお話します。

ルーマニアの6つの『踊り』をモチーフにした曲でした。でも、なにか食べながら踊ったのかもしれないし、女の子たちが踊っていたのかもしれません。だからみんな正解、みんなが曲を聴いて感じたこと、それが正解なんです。さっきの『白鳥』も、本当は好きな女の子のことを考えて作曲したのかもしれませんよ

次の曲について、新倉さんが紹介します。

昔から、東ヨーロッパのいろいろな国を伝わってきたニグンという曲です。これはお祈りの曲で、離ればなれになったお友だちのことを想いながら口ずさむと、心は一緒にいられる、といった曲です。そして後半はどんどんリズミカルになっていきます。私たちの演奏についてきてください、というよりは、皆さんが手拍子や足踏みで私たちを引っ張って行ってくださいね

新倉さんの歌で曲が始まりました。チェロとアコーディオンが寄り添うように伴奏する中、やさしく穏やかで、すこし悲しげな歌声が教室に流れます。突然、軽快で力強い曲調に変わると新倉さんの手拍子を合図に、子どもたちは曲に合わせて一斉に手拍子を始めました。演奏と子どもたちの手拍子とで、教室は一体となり、演奏はどんどんエネルギッシュになっていきました。

笑顔で演奏を終えた後、新倉さんが子どもたちに話しかけます。

次は、皆さんにも歌って欲しいと思います。松原小学校の校歌の伴奏を二人で練習したので、皆さん、歌ってくれますか?

松原小学校では、他校と同じく、コロナ禍となってから学校行事で校歌を歌うことがめっきり減り、5年生も校歌を歌うのは久しぶりとのことでした。子どもたちは少し自信無さげでしたが、新倉さんから

途中、歌詞がわからなくなっても、みんなが助けてくれるから大丈夫だよ。強弱をつけながら伴奏するので、それに合わせながら歌ってくれたらうれしいです

と声をかけられると、笑顔で起立し、お二人の前奏に続いて、元気に歌い出しました。チェロとアコーディオンの美しく軽快な伴奏に乗せて、久しぶりに松原小学校内に、校歌が響き渡りました。

最後の曲を演奏する前に、皆さんなにか質問ありますか」

新倉さんが呼びかけると、続々と手が上がります。

「チェロの糸みたいな部分の、上や下を押さえて演奏していましたが、それはなぜですか?」

アコーディオンは120個ボタンがありますが、チェロは4本しか弦が無くて、弦を弾くとラ・レ・ソ・ドの4つの音しかでません。でも左手の指で弦を押さえることで120以上の音程をとることができます。皆さんと同じ年齢のときにチェロを始めたんですが、訓練を重ねてだんだん感覚で弦を押さえられるようになりました

「チェロの表側にある2つの『f』みたいな切れ目は模様ですか?なにか効果があるんですか?」

楽器の中で響かせた音が、この空いている部分から出でいます。すべての弦楽器にこの模様があるので、今度から見てみてくださいね

「瞳さんが見ている楽譜は、ピアノと同じものですか?」

スコア譜と言って、ピアノの楽譜のように全部が書いてある楽譜を使用することもあります。スコア譜は、一緒に演奏する人たちがどんな音を出しているのか把握することができます。または、パート譜と言って、チェロの演奏する部分のみ書かれている楽譜を使用することもあります。今日は、スコア譜を使用しています。このようにiPadの画面に映した楽譜を、足でボタンを操作してめくるのですが、この方法になってからスコア譜を使用することが増えました

「楽譜は暗記していますか」

ほとんど覚えていますが、自分の演奏に間違いが無いか、また他の人がどのような演奏をしているか確認するために、ときどき楽譜を見ています

「アコーディオンの演奏中、楽器を太鼓のように叩いたりしていましたが、そういう演奏の仕方はあるんですか?」

いろいろな部分を叩いたり、はじいたりして、様々な音を出すことができます。例えば、ビブラートにするとき、蛇腹を使用する他にも、膝で楽器を揺らしたり、楽器の一部の歯で噛んで振動を与えたりすることもあります。楽器を優しく扱うのであれば、大丈夫。楽器は自由です。自分が『こうしたい!』と感じたままに、自由に演奏して音楽をぜひ楽しんでください

次々と出てくる子どもたちの質問に、お二人は時間が許すかぎり、とても分かりやすく丁寧に回答してくれました。

最後は久石譲作曲『人生のメリーゴーランド~ハウルの動く城メインテーマ』です。スタジオジブリ制作の映画『ハウルの動く城』で、実際に佐藤さんがテーマ曲を演奏していることを知った子供たちは、「え!うそ、ホントに!」「すごい」などと驚きの声を上げていました。聞き覚えのあるアコーディオンのイントロダクションで演奏がはじまると、馴染みのあるドラマチックな曲に、子どもたちは深く頷いたり、体でリズムをとったりしながら楽しんで聴いていました。

クラスコンサート終了後、子どもたちからは「とても楽しかった。もっと聴いていたかったです」「アコーディオンの演奏を初めて聴きました。チェロとアコーディオンの音色がとても幻想的でした」という声が聞かれました。また、同席した先生からは「お二人の演奏が素晴らしいのはもちろんですが、子どもたちがこのクラスコンサートを心から楽しみ、一生懸命お二人のお話と演奏を聴いている姿にとても感動しました」という感想をいただきました。

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